こんばんは。
第三回デジタルえほんアワードの締め切りが近づいています。
本日は、過去開催時に受賞された作者さんのインタビューをご紹介します。
えほん社は、前回のデジタルえほんアワード表彰式の後に、作者の方々にインタビュー実施しました。
本日は、第二回デジタルえほんアワード作品部門審査員特別賞を受賞した『ひとりぼっちのりく』の作者である、りく企画の木立じゅんこさんのインタビューをご紹介します。
『ひとりぼっちのりく』は、東日本大震災で被災してしまった一匹の犬が主人公のデジタルえほんです。
この作品の生まれた背景には、震災のあと、親として、大人として、こどもたちに何を伝えたらいいのかという、木立さんの真摯な思いがありました。
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《りく企画 木立じゅんこさんインタビュー》2013.3.9(聞き手:たねおいめぐみ)
絵本の誕生日プレゼント
——まず、なぜデジタルえほんをつくろうと思ったのか、というところからお伺いしたいなと思うんですけれども。
木立さん(以下敬称省略):なぜつくろうと思ったのでしょうね(笑)
−—もともとは紙のえほんを描かれたりしていたんですか?
木立:ああ、そうです。今回応募させていただいたのも、もともとはこどもの誕生日のためだったんです。
前回作った時は、長男の7才の誕生日で。今回の『ひとりぼっちのりく』は、家の犬の1才の誕生日の時のえほんなんです。
木立じゅんこさん(第二回デジタルえほんアワード表彰式にて)
−—では、もう何冊もつくられているんですか?
木立:はい。すごくたくさんというわけではないですけれども、6冊くらいかな。
——それは全てデジタルえほんというかたちで?
木立:いえ、紙に描いてそれをお誕生日プレゼントとして製本して。
製本の仕方っていう本が出てるんですよね。そういうのを見て、のりをつけてぎゅっとやって。
そこで、絵本をスキャナーにとって、簡単にそれを電子えほんにできるツールをネクストブックの方が無料で出してくださったんですね。これ使えば簡単に電子えほんになるね、じゃあやってみよう!って。
——じゃあ、デジタルえほんアワードに応募しようと思ったきっかけは何だったんですか?
木立:それは父ちゃん(旦那さん)がこんなのあるよ、出してみようよって言ってきて。じゃあ出してみようよって(笑)。
元々、家の人はアップルの製品を売ってる人間なので。それで、なにかで見たらしくて。私はどっちかというとずっとワークショップコレクションの方が気になってて、じゃあついでにと(笑)。
“こどもたちが大人になったときに、必ず残っていて欲しいんです。”
—ではお作りただいた作品についてお伺いしたいんですけれども。事前にいただいたエントリーシートで、今回の作品をお作りになったきっかけが書かれていたんですけれども、改めておうかがいしたいなと思いまして。
木立:ああ、はいはい。なんて書いたんでしたっけ。(笑)
——東日本大震災があり、というようなお話ですかね。
木立:ああ!ね。震災のときに、ボランティアさんがすごい時間もお金も体力も使って、犬猫の救出のためにがんばってらっしゃるのを、冊子でもらったんですよね。で、それを読んで息をのんでしまって。これをこどもたちにどう伝えたらいいのだろうと思ったんです。
——作品は、自分のお子さまのためのものになるんですよね、毎回。伝えたい方がはっきりいる上で作られている。
木立:そうですね。実際に津波があって、バアって流されていく映像がもろに画面に映ってしまって。こどもたちが岩手の三陸を旅したときに優しくしてくれたあのおばあちゃんたちも流されたって聞いて。
映像ってもろに目に入るじゃないですか。長男は、目に入った映像がすごい焼き付いてしまう人なので、止めてって言われて止めざるをえなくて。その被害の状況っていうのは、大人は刻々と今何が起きているっていうことは知っているんだけど、こどもには伝えきれなくて。
犬も9匹いたんですけど、9匹のうち8匹が死んだんです。あのひと(りく)だけが生き残って。お母さんもどうなったかもう分からない。もう飼い主さんもいない、兄弟も8匹みんな死んだってことを、なんでもショック受けてしまうこどもに、どう伝えたらいいのかなと。
——はい。
木立:それで、ちょうど1才の誕生日のお誕生日プレゼントというかたちで、ショックじゃないシーンだけにしてえほんにしてみようかなって。
でも、かなり削ったんです。ちょっとこどもには見せられないって。
途中で、海に燃えてる家が映ってるシーンがあったんですけれど、それはやめた方がいいんじゃないかなって。だから短くなってるんです。
−—読ませていただいたときに、辛いとか嫌な思い出みたいなところが全然蘇らなかったというか。
心が温まるじゃないですけれども、ほっとしたというか。その感想が適切か分かりませんが、そういう印象でした。
木立:それが一番うれしいです。ありがとうございます。そうおっしゃっていただけて。
——敏感なお子さんだと、私とまた受け取り方も違うかもしれませんね。
木立:そういう子には見せられないかもしれませんよね。でも、書かなければ忘れられてしまうことだし、犬の一生なんて短いし、そんな犬もいたね、ぐらいになってしまったら、起きたことが全部こどもの記憶から消えてしまう。
こどもたちが大人になったときに、必ず残っていて欲しいんです。
デジタルえほんをつくる
−−では、事前におうかがいしたいなと思っていたことをいくつか質問させていただければと思うんですが、今回作品を作るにあたって苦労した点とか、工夫した点とか、実現したいけどできなかった点などはありましたか?
木立:実現したいけどできなかったのは、もうどっさりです。例えば、ゴミの中で寝ているシーンは、動いて雪が降ってくればいいなとか、音をもっといれたかったなとか、声を入れたいとか。いろんなこと思うんですけど、それを録音するっていう技術もなくて。そのネクストブックさんが出してらっしゃるツールっていうのは、もっといろんなことができるんですけれども、それを全部消化して、それを反映させるにはもう手一杯で。
−−技術的に簡単に作れるツールなどが出ると、よりいろんな方が参加できますかね。
木立:そうですね。やりたいっていう気持ちの人はいっぱいいるんだと思います。
——先ほど、(デジタルえほんアワード表彰式で)茂木さんもおっしゃられていましたが、デジタルえほんはこどもに良くないって言われているけれど、そんなことないと。実際にお子さんがいらっしゃって、デジタルえほんというものをこどもが読むということに関してはどのようにお考えでしょうか。
木立:最近、下の子が目悪くなってきたので、近くで見てばっかりじゃなくて離してとは言ってるんですけど、どうなんですかね。いろいろ描いてみて、こんなの作ったんだけどう?って言うと、よその人は紙の絵本で見たいって言うんですね。画面をめくるのは面白くないそうなんです。紙の手触りでめくりたいと。それをこどもに伝えたいって、みんな思っているとこるがあるので、デジタルえほんにする場合はそれとは全然違うものじゃないとだめですよね、きっと。
でも、iPadの画面に星空が映るってだけでも、最初感動しませんでした?
新しいツールがあれば、どんどんいろんなことできておもしろいと思うんです。
−−紙のえほんとデジタルえほんは、全く別物かなと思っていて。新しい文化というか、また別の表現の媒体かなと思ってるんですけれども。
木立:そうですね。そう思います。さっきの宇野くん(作品賞受賞者)みたいに、そういう文化の中で育った人たちがもっともっとすごい発想をしていくんですよね、きっと。
“例えば無菌室の中にいて外に出られないようなこどもには、タブレットなら入れることができる”
——今のお話と繋がるかもしれないんですけれども、デジタルえほんに感じている可能性についておうかがいできたらと。
木立:全然違う話になるんですけれども、例えば無菌室の中にいて外に出られないようなこどもには、タブレットなら入れることができるので、すごくいろんなことができるかな、なんて思ったりします。
——たしかにそうですね。
木立:元々私たち、病院街の横に住んでいたので。清瀬とか、となりのトトロのお母さんが入院していた辺り、全部病院街なんですね。で、難病で外に出られないというこどもたちがいっぱい病院にいるじゃないですか。そういう人たちにとっては、特にこういうのが武器になるかななんて。
——本当ですね。
木立:この間、山寺宏一さんが宮城の方のこども病院で、アンパンマンでいっぱい楽しませてあげたんだよって聞いて。ボランティアで行かれたそうなんですけどね。そうやって来てくれたときはいいんだけれど、そうじゃない普段は、いろんなものを持ち込みたくてもバイ菌がついているといけないだとかあるときに、こういうのはとても便利ですよね。
“びっくり箱みたいなものをつくりたいと思いません?”
——では、これは最後のご質問にしようと思うんですけれども。これからまた次、ご自身の作品としてこんなのつくってみたいとか、技術的にできることが増えたらこんなの作ってみたいなとかありましたら、教えていただけますか。
木立:えーっと、写真とかいろいろ連動して、画面が思ったとおりに動くんじゃなくて、全然見てる人が思わないような動きができて、こどもがびっくりしたら面白いなあと。こどもたちをびっくりさせるのって、面白いじゃないですか。びっくり箱みたいなものをつくりたいと思いません?
——素敵ですね。
木立:普通に触ってて、予想した通りの動きをしたらつまらないじゃないですか。
−−こどもたちがどうやったら楽しいんだろうと、その通りに動けるように、ていう作品が比較的多いような気もしていて。こどもがいかに動かしやすいかとか、反応があるかとか、こども様じゃないですけれども、そういったものが多いかなと。
木立:そんなに上品じゃないので、こどもが嫌がること好きなんですよ(笑)
−−今のお話うかがって、「え!なんで?なんで?」というようなものに、こどもは前のめりに取り組むかもと思いました。
木立:例えば、お人形とか出して可愛く動かしてあげるよりは、端からそっと動かしてぱっと出すと、きゃーって逃げるじゃないですか。嫌がることが大好きなの(笑)
−−(笑)。お父さん、お母さんである方の目線で、こういったデジタルえほんなど作られていくと、いいものもできていくのではないかと思います。プロの方だけではなくて、様々な人が協力して作れたら。
木立:ああ、そうですね。おもしろいですね。さっきお父さんと、やっぱり大賞は会社の人だね、いろんなセクションで、チームとして仕事ができるからいいんだよ、って話していたんですけれども。いろんな人が集まって、1つのものつくれば面白いですよね。やることがすごく多すぎるから、分担しないと使った人が満足するものは難しいんでしょうね。
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インタビューを通して、木立さんの語る言葉のすべてから感じる事ができたのは、親として、大人として、こどもたちになにを伝えていけばいいのか、こどもたちにとって本当に良いものとは何なのか真剣に考える、暖かいまなざしなのではないかと思います。
デジタルえほんは、あくまでこれからの時代を生きるこどもたちの生活の一部にすぎません。
紙の絵本や、おもちゃと同様に、スマートフォンやタブレットなどのデバイスは、
おそらくこどもたちの生活の一部として当たり前に存在するものになるのではないかと思います。
そんな中で、こどもたちをわくわくさせたり、楽しませ、想像力を刺激するようなデジタルえほんがあれば、
それはひとつの豊かさと言えるのではないかと思います。
たくさんのヒントがつまった、暖かいインタビューでした。
第三回デジタルえほんアワードは、まだまだエントリーを募集しています。
デジタルえほんをテーマに、みなさんのアイデアやこどもたちへの思いを応募してみませんか?
みなさんのご応募をお待ちしています。
(ほりあい)
『ひとりぼっちのりく』
販売元: Shigeru Kidachi © LIKU version 1.0, Copyright 2012 Liku kikaku.
価格:¥100
互換性: iOS 3.2 以降。 iPhone 3GS、iPhone 4、iPhone 4S、iPhone 5、iPhone 5c、iPhone 5s、iPad、iPod touch(第3世代)、iPod touch (第4世代)、およびiPod touch (第5世代) に対応。
URL:https://itunes.apple.com/jp/app/hitoribotchinoriku/id505044981?mt=8
HP:http://likukikaku.web.fc2.com/Support_page/liku_kikaku.html
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※デジタルえほんアワードでは応募作品を募集しています。
募集部門は、<企画部門><作品部門>の2つ。
こんなデジタルえほんがあったらいいなといったアイデアをお持ちの方は<企画部門>
ぜひわたしのデジタルえほんを見て欲しい!という方は<作品部門>にご応募下さい。
各部門グランプリには賞金20万円、準グランプリには5万円が贈呈されます。
ご応募いただいたものは、豪華8名の審査員によって審査されます。
応募締め切りは6月20日(金)。
皆様のご応募をお待ちしております!
詳細はデジタルえほんアワードオフィシャルサイトホームページをご覧下さい。
【第三回デジタルえほんアワード開催概要】
■ 募集部門 : 企画部門、作品部門
■ 募集期間 : 2014年4月8日(火)〜2014年6月20日(金)
■ 賞 典:企画部門グランプリ(賞金20万円)
作品部門グランプリ(賞金20万円)
企画部門準グランプリ(賞金5万円)
作品部門準グランプリ(賞金5万円)
各部門審査員特別賞 など
■ 審査基準
審査は以下の3つの要素に基づき行います。
・たのしい!
(こどもたちを魅了し、夢中にさせる楽しさ)
・みたことがない!
(これまで出会ったことのない新しい表現)
・世界がひろがる!
(こどもたちの想像力・創造力を育み、世界を広げてくれるしかけ)
≪デジタルえほんとは?≫
タブレット、電子書籍リーダー、電子黒板・サイネージ、
スマートフォン等テレビやパソコン以外の新しい端末を含む
子ども向けデジタル表現を総称して「デジタルえほん」としています。
■ 審査員
※敬称略・五十音順
・いしかわ こうじ / 絵本作家
・角川 歴彦 / 株式会社KADOKAWA取締役会長
・香山 リカ / 精神科医・立教大学教授
・きむら ゆういち / 絵本作家
・小林 登 / 東京大学名誉教授・国立小児病院名誉院長
・杉山 知之 / デジタルハリウッド大学学長
・水口 哲也 / クリエイター・プロデューサー、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授
・茂木 健一郎 / 脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、慶應義塾大学研究特任教授
2014年7月開催の審査会を経て、2014年8月29日、30日開催の
「ワークショップコレクション10」 (主催:NPO法人CANVAS)内にて
結果発表及び表彰式を行います。
主催:株式会社デジタルえほん、NPO法人CANVAS
協力:愛知県立大学情報科学共同研究所
中京大学工学部宮田研究室
デジタルハリウッド大学
武蔵野美術大学
東北芸術工科大学
札幌メディアアーツラボ
女子美術大学
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科
東京大学大学院 情報学環・福武ホール
東京コンテンツプロデュースラボ
早稲田大学国際情報通信研究センター
■公式サイト
http://www.digitalehonaward.net