今回は、驚くほどたくさんの作品が世界中から殺到しました。応募総数は前回より100作品以上多い299作品、海外からの応募は例年の2倍、また、デジタルえほんアワードを開催して以来過去最多である32カ国よりご応募いただきました。
受賞作品のご紹介ページの公開に先立ちまして、結果速報をお送りいたします。
受賞されたみなさま、おめでとうございます!
ご応募いただきましたみなさま、ありがとうございました!
Lucy & Pogo ? play, listen and learn / catsndogz gbr (Germany)
Mur / Step In Books (Denmark)
いしかわ こうじ賞:BOUM! / Les Inediteurs (France)
角川 歴彦賞:Fox Tales / OhNoo Studio (Poland)
きむら ゆういち賞:Oh ! The magic drawing app / Anouck Boisrobert & Louis Rigaud (France)
榊原 洋一賞:Artie’s Magic Pencil / Minilab Studios (United Kingdom)
篠原ともえ賞:ExplorArt Klee – The Art of Paul Klee, for Kids / Lapisly (Spain)
杉山 知之賞:The Gruffalo Spotter / Magic Light Pictures (United Kingdom)
松岡希代子賞:Wuwu & Co. – a magical picture book / Step In Books (Denmark)
水口 哲也賞:CHOMP by Christoph Niemann / Fox and Sheep GmbH (Germany)
茂木 健一郎賞:ARの国のアリス / 向井丈視・バク・ヨンヒョ・白鳥啓 (Japan)
Wuwu & Co. – a magical picture book / Step In Books (Denmark)
Smart PJ’s / Smart PJ’s (USA)
Pechat(ペチャット) / 株式会社博報堂 (Japan)
TOTO 01 AR/VR/MR BOOK+APP / VICTORIA PRODUCTIONS INC (South Korea)
のりものずかん / クリーモ株式会社 (Japan)
Endless Learning Academy / Originator Inc. (USA)
Nighty Night Circus / Fox and Sheep GmbH (Germany)
Thinkrolls Kings & Queens / Avokiddo (Cyprus)
DNA Play – Create and Play with Funny Monsters / Avokiddo (Cyprus)
Mortimer and the Dinosaurs / chiquimedia (Spain)
Town / Sago Mini (Canada)
codeSpark Academy with the Foos / codeSpark, Inc (USA)
せかいパレット / 有限会社スタジオビートニクス (Japan)
Dr. Seuss’s ABC – Read & Learn – Dr. Seuss / Oceanhouse Media (USA)
ピンくるカラー / 網野 友美 (Japan)
SUM! 数字のダンス / 株式会社あんふぁに (Japan)
Naaay! Taaay! (Mooom! Daaad!) / Adarna Digital – Adarna House, Inc. (Philippines)
Green Riding Hood / Bobaka LLC (Belarus)
たいようけいをすくえ!だいさくせん / ユーバープログラミングスクール (Japan)
あり男VSアリ男 / 中代 悟心 (Japan)
たねをまいたら / 崎山 盛一 (Japan)
大好きな人へのメッセージ / Laki Laki Kids Programming (Japan)
「わたしたちの街の魅力を発信しよう!稲城市観光PR_見晴らしコース」 / スーパーキッズ (Japan)
100ぴきのこぶた / 香川富士見丘幼稚園 ビスケット塾 (Japan)
うちゅうりょこう / 香川富士見丘幼稚園 ビスケット塾 (Japan)
ピッケのつくるえほん for iPad / 株式会社グッド・グリーフ (Japan)
BuriBooks / Adarna Digital – Adarna House, Inc. (Philippines)
Time Travel Trondheim / ablemagic AS (Norway)
あんざんマンと算ストーン / クリーモ株式会社 (Japan)
One Globe Kids – friends around the world / Globe Smart Kids (USA)
Mammals by Tinybop Inc. / Tinybop Inc. (USA)
デジタルえほんアワード準グランプリ作品「Monster Mingle」のCowly Owl Ltdさんがインスタグラムでえほんアワードについてツイートしてくれました!!
Thank you Cowly Owl Ltd, the second prize winner of Digital Ehon Award for tweeting about Digital Ehon Award on instagram today!
デジタルえほんアワード受賞者インタビューシリーズ、3回目の今回は、第3回デジタルえほんアワード作品部門準グランプリの『きりえほん 〜しんかいさんぽ〜』の作者石川由貴さんと、同じく作品部門入賞をはたした『コロリロン』の作者海親(みちか)さんのインタビューをお届けします。
受賞者のお二人はなんとまだ女子大生。
今年の春に卒業を控えた、女子美術大学に通われている大学4年生です。
プロ顔負けのすばらしいデジタルえほんが生まれた経緯をうかがいました。
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《石川由貴さん&海親さん インタビュー 2014/11/12》(聞き手:堀合俊博)
受賞作品ができるまで
–この度は、石川さんは準グランプリ、海親さんは入賞ということで、おめでとうございます。受賞後に反響などありましたか?
海親さん(以下敬称略):Facebookとかでお知らせしたら友だちが見てくれて。受賞のニュース見たよとか、写真載ってたねとか言ってくれて、結構驚きました。
石川由貴さん(以下敬称略、石川):地元の友だちに話したら、実際にアプリをやってみたいということでダウンロードしていただいて。さらにAppStoreでコメントまで書いてくれて、すごく嬉しかったです。
–今回の作品は、女子美術大学での季里先生の授業で制作された作品とうかがいました。お互いの作品についてどのような印象をお持ちですか?
海親:彼女の作品は、こうやってデジタルえほんになる前に、別のかたちでもう既に作品になっていたので、それがまたデジタルえほんという別のかたちになったのが面白いと思いました。あと、授業では作品作りと一緒に子ども向けのワークショップを実施するんですが、そこで切り絵を作って子どもたちと一緒に紙に貼るワークショップをしていて、デジタルえほんとはまた別のかたちでとてもいいなあと思いました。
石川:私も彼女が作っている最中から横目でちらちら見ていたんですけど、すごい絵がかわいくて。作品の中に登場する海牛?のキャラクター(リロ)ががすごく好きなんです。モノクロで統一された世界の中で、かわいいキャラクターたちを魅力的に見せるのはすごいなあと思いました。あと、四角形をタッチするだけっていうわかりやすく、簡単な操作だけで、いろんなアクションをできるところが好きです。
–それでは、それぞれお二人の作品について伺っていきますね。
石川さんの作品『きりえほん』は、以前に制作されたアニメーションをデジタルえほん化した作品とのことですが、そうしようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
石川:もともとは昔作った切り絵のコマ撮りコマドリアニメ−ションがあって、季里先生からこれをアプリにしたらもっと面白くなるんじゃないかなとアドバイスをいただいて、それでやってみようと思ったんです。
–制作の際にアニメーションとアプリの違いとして、気をつけたことはありますか?
石川:季里先生に、デジタルえほん化をすすめられたときに、切り絵自体のシルエットが、「一体これは何の生き物なんだろう」といったように、子どもたちの想像力を駆り立てるようなことができる絵本になるんじゃないかとおっしゃっていただき、そのことを意識しながらデジタルえほんとして制作しました。はじめてのアプリ制作だったのでなかなかやりたい動きができなかったり、あまり細かい所をつめすぎちゃうとアプリの動作が重くなってしまったりと、うまくバランスをとるのが難しかったです。
–深海のモチーフを選ばれたのはなぜですか?
石川:「メンダコ」っていう深海のタコがいるんですけど、小さい頃に深海の生き物についてのテレビ番組でそれを知って、すごく可愛くて。そこから深海に興味を持ったんです。
最初にコマ撮りで切り絵のアニメーションを作る時に、深海ってどんな生物がいるかがわからないので、シルエットでやった方が見てくれる人が想像してくれるかなと思ったんです。「まだ見ぬお魚がいるんだぞ」っていうこと伝えられたらなと。
《石川由貴 「きりえほん 〜しんかいさんぽ〜」》
–最初の方はページナビゲーションがある作りなのですが、途中からそれをなくし、登場するアンコウに導かれるかたちになっていますが、そのように制作された意図はどういったものなのでしょうか?
石川:読み手の人にいろんなところをタッチしてもらって、ああここも動くんだって、反応するんだって気づいてもらいながら、道を探してもらおうという意図で、途中からページめくりのナビゲーションをなくしたんです。ただめくっているだけじゃつまらないなあと思ったので、何かが動いたら反応して、次のページに進むっていうかたちにして、冒険感を出してみました。そこを気づいてもらえなくて、これで終わりなのかと勘違いされたらどうしよう…と自分でも不安なところがあったんですけど、気づいてもらえてるようでよかったです。
–ありがとうございます。それでは、海親さんの『コロリロン』について伺っていきますね。
はじめから、動く四角形に導かれるかたちで鑑賞するしくみになっていますが、こういった設計はどういったアイデアからきたのでしょうか?
海親:制作をしていくうちに、動くものってすごく押したくなるなあっていうことが分かったんです。そこから、ナビゲーションとなる四角形を最初から動かすようにしたりとか、自然なかたちで四角形を押すことをわかりやすくするようにしていました。
《海親 「コロリロン」》
–色彩をモノクロで統一したのは意図として何かありますか?
海親:アプリでデジタルえほんを作るとなったときに、アプリの機能に慣れる試作の段階で灰色が気にいったんです。そこから、灰色中心にパーツを作っていったんですけど、それをご覧になった先生がけっこう気に入って下さって。最初は灰色の中にも少しだけ水色とか入れようと思っていたんですけど、それはしないほうがいいんじゃないかとおっしゃっていただいて、作っていく中で自分でも全体の雰囲気や色彩の見え方の具合からその方がいいなと思ったので、モノクロで統一しました。
–作品の独特な世界観に何かコンセプトなどはありますか?
海親:デジタルえほんというよりは、アプリを作りたいという気持ちが大きかったので、ゲームとかおもちゃ感覚で楽しんでもらえるものがいいなと思って作っていきました。昔好きだったフラッシュの作品で、クリックしたら反応するだけのものがあったので、そういったものを思い出しつつ作った部分もあります。
–デジタルえほん作品の中にはしばしばゲーム性のようなものが盛り込まれた作品が見受けられるのですが、ゲームとデジタルえほんとの関係についてどう思います?
海親:ゴールに行ったときに、そのゴール自体も正解だって思えるか否かという感じですかね。ゴ−ルに行って、これは完全に失敗だと思ったらそれはゲームになっちゃうんじゃないですか。ゴールが失敗だったとしても、それが物語、絵本の内容として、これでよかったなという気持ちになれたら、それは絵本になるんじゃないですかね。
言葉のないえほん作り
–これはお二人の作品に共通して言えることかと思いますが、作品の中で言葉を用いないといことに、何か想いや考えはあるのでしょうか?
石川:私は、タイトルである『しんかいさんぽ』の通り、深海を自由に散歩しているイメージだったので、そこに言葉はいらなくて、読み手である人たちが、それぞれの目線で作品の中で登場するあんこうなどの生き物たちが何か言っているように感じたり、それぞれストーリーを自分の頭で考えて欲しいなという思いがあったので、あえて言葉はいらないかなと。
海親:私は、いろんなひとに楽しんでもらいたいなという思いがあります。今回のデジタルえほんアワードでも世界中の作品が集まっていたかと思いますが、海外の作品で言葉が中心となるものに関しては、やっぱり言語の壁があるなあと思うんです。子どもたちにとっては、特に読まなくても楽しめる場合もあると思うんですけど、おとなというか私からするとそれが気になることが多くて、それなら最初から読むっていうことを無くしてみるのもありかなと思ったので、『コロリロン』ではそれをやってみました。
絵本を読むこと、つくること
–普段絵本は読みますか?
石川:はい、私は子ども向けのかわいい感じの作品が好きで、そういった表現には興味があるので、普段の制作も子ども向けのような絵柄のものが多いです。
海親:私は子ども向けのものが好きというよりは絵本が好きですね。
–好きな作家さんとかいますか?
石川:私は誰にでも親しみやすいような絵のタッチが好きで、マンガやアニメから影響されることが多かったりするんですけど、そうですね、たとえばジブリアニメーションの絵が凄く好きで、けっこう影響されたかなあと思います。
海親:もともと好きだった絵本だと、「ぐりとぐら」とか、いせひでこさんの絵本とかがすごく好きですね。本を造るおじさんのはなしの(「ルリユールおじさん」)とか、「にいさん」っていうゴッホのお話とか、けっこう大人向けっぽい絵本を書く人なんですけど。制作の時は結構いろいろな絵本を見てたので、作品にはそれらが混ざって影響されているかもしれませんね。
–制作の際には、鉛筆や絵筆などといったアナログな手法と、ペンタブレットなどのデジタルツールを使ったものと、どちらを使用されることが多いですか?
海親:最近だとデジタルの方が多いですね。
石川:どっちも好きなので同じくらいです。
–制作プロセスや出来上がってくる作品において、アナログとデジタルの関係性はこれからどうなっていくと思いますか?
海親:最近はアニメーションも手描きよりもパソコンで最初から描いてるものや、3Dアニメ自体もけっこう増えてきたかと思います。アニメの中に3Dが混ざっていたり、全部3Dで作っていたり。これからもっとデジタルのものが増えていくとは思うんですけど、だからといってアナログが完全に消えるというのはないんじゃないかなあと思います。やっぱり好きな人がかならず残ると思うので。
石川:確かに、和紙とかも話題になったりしているので廃れたりはしないと思います。
–これからデジタルデバイスが当たり前のものになっていく中で、デジタルえほんはどうなっていくと思いますか?
石川:デジタルは動きや反応がリアルタイムで得られるものなので、子どもたちにとって刺激になると思うんです。それはそれでいいと思うのですが、紙の本を実際に自分でめくったり、現実の動作で楽しんだり、ものの質感からも作品のオーラというか、そういったものが伝わってくると思うので、それはそれで両方ともあって欲しいなというのが私の気持ちです。
海親:デジタルえほんは、押したらスマホの中で反応が起きるっていうタイプの「しかけ絵本」だと思うんですけど、紙のしかけ絵本って、紙の端をひっぱったり、自分で動かすものじゃないですか。その違いがあるので、両方残って欲しいという思いがあります。
–お二人にとって、デジタルえほんとはどういったものでしょう?
石川:絵本界の未来への架け橋…みたいな。
海親:私は、紙のえほんにもデジタルのえほんにもいいところはあって、そこまで大きな差をつけるものなのかなという気持ちにもなります。流通の問題とか、お金の問題だとか差はけっこうあるのかなと思うんですけど、絵本として楽しむという観点でいうとそんなに差はないのかなって思います。
–それじゃあ、絵本ってどういうものなんでしょう?
石川:作者の思いを絵で具現化したもの・・・ですかね。
海親:私の場合、作品自体が自分の手元から離れた場合は、結局は全部相手の受け取り方次第になってしまうと思っています。自分がこう思って書いた、っていう場合でも、ひとによってはぜんぜんそういう受け取り方をしなかったりもすることもけっこうあると思うので。なので、絵本も積み木やぬいぐるみみたいに、持っている人が自由に楽しむおもちゃみたいなものなのかなと。
石川:たしかによっぽど伝えたいことがなければ、相手の想像に任せる感じ、ですかね。
–今後どういったものを作っていきたいですか?
海親:絵本みたいな絵柄とか、お話、謡みたいな雰囲気が好きなので、そういった雰囲気のある作品をまた作っていきたいなと考えています。
石川:私は、作品を見た人が楽しい気持ちになって欲しいという思いが強いので、多くの人にいろんな面白いものを体験してもらえるような作品を作りたいと思います。
–ありがとうございました。
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デジタルえほんアワードがはじまってから3年、その歴史はまだまだ浅いのですが、このお二人のような若手のクリエイターが確かな“デジタルえほん観”を持ち、こんなにもクオリティの高い作品が生み出されているということに、私たち事務局としても大変励まされます。
次回はさらに若手、最年少受賞者のインタビューをお届けします。
(ほりあい)
第3回デジタルえほんアワード、受賞者インタビューシリーズ第二弾は、「子供に向けた未来の遊びをデザインしているクリエイティブチーム」である、PPPのクリエイティブディレクター橋本俊行さん、佐々木康貴さんのインタビューをお届けします。
PPPの「WA!SK」、そして「GRAFFY」は、それぞれ第3回デジタルえほんアワード審査員特別賞と入賞に選ばれました。ポップで洗練されたカラフルなデザインとテクノロジーが魅力のその創作について、おはなしをうかがいました。
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《PPPインタビュー》2014/11/10(聞き手:堀合俊博)
–アワード受賞後、何か反響などありましたか?
橋本さん(以下、敬称略):そうですね、周りへの影響が断然違うと思います。アワードでの受賞とか、そういった評価は今後ずっとついてくるものなので、大きいかなと思います。
あと、評価してもらったときにいただいたコメントが、ああなるほどと参考になりました。審査員の方々はいろんなもの見ている方達だと思うので、そういう人たちの意見をもらえたのはとても重要だと思います。
佐々木さん(以下、敬称略):WA!SKが能面のように見えるっていうコメントが面白かったですね。特に和を意識したわけではないんですが。
橋本:そうそう、なるほどなあと。
佐々木:そういう風に、PPPとしてやっていたものが、審査員の方からまた違う目線や評価をいただけるので、そういった客観的な意見は大きいなと思っています。
PPPのはじまり
— PPPはいつから活動されているんですか?
佐々木:活動自体は2011年からですね。
橋本:それ以前からお互い繋がりがあったんですけど。
佐々木: 2000年ぐらいから知り合いなんですよ。一緒に何かやりたいねっていう話はずっとしていたんですけど、お互い子どもができたり、震災があったりして、子どもに向けたことを何かやれないかなというところから、PPPがスタートしました。
橋本:ちょうど震災の時に子どもが生まれたんですが、
僕にとって子供は未知の世界だったんです。実際に生まれてみて、ああこんなに違うんだっていう衝撃を受けて。それから、いままでやってきたことをどういったかたちで子どもたちに見せられるのかなとか、楽しんでもらえるにはどうしたらいいかを考えていて。そんな時に震災があって、結果としてそれがPPPをはじめる大きなきっかけにはなりました。
表現とテクノロジー
–作品を拝見していて感じたのですが、テクノロジーがあった上で作品の方向性が決まるのか、方向性を模索していく中でテクノロジーを利用するのか、はじまりのきっかけはどちらですか?
佐々木:テクノロジー自体がトリガーになることはもちろんあるんですけれど、PPPの中では、テクノロジーを見せたいわけではなくて、あくまでそれは手段のひとつですね。もしかしたらテクノロジーはいらなくて、使わないでも成立することもあるかもしれない。
橋本:現在はそういう考えになってきているんですけど、最初に作ったTSUMIKIという作品では、その時流行っていたプロジェクションマッピングを利用して、動かして遊べる積み木とマッピングを組み合わせて、そこに絵本的なストーリー性のある世界を作りました。
《TSUMIKI つむとイメージがあらわれる次世代の積み木》
橋本:これまでの活動を通してPPPのかたちができてきたから、もっとシンプルに子どもが興味を持つものが作れたらいいなと思います。子どもって、僕らが思っているよりもっと直感的で、色をだけを見ていたりとか、考えないんですよね、そんなに。技術の小難しさとかはいらなくて、もっともっとシンプルに研ぎすまして、遊びの体験の入口としての導線をもっと解放してあげて、すっと入れるようなものがいいのかなと。実は難しいことをやっていても、簡単に見せる設計をする、そこが腕の見せ所というか。
体験の「奥行き」
佐々木:そういう意味では、アプリの前に作ったクラフト版のWA!SKはPPPにとってターニングポイントでした。それ以前はTSUMIKIや、PLAYPADというRFIDというICタグを使った作品を作ったんです。その時はそれで迷いなく作っていたんですが、WA!SKを作ったときに、単純に楽しいということでいいんだ、単純に楽しいものが人を惹き付けるんだっていうこと、当たり前のことなんですけど、そこに気がついて。そこからは橋本くんが言ったように、シンプルにいかに楽しく、それがどういう仕組みでどうなっているということは全然関係なくて、やって楽しいかどうか、デザインがぐっとくるかどうかっていうところに、どんどん進んでいきました。
《PLAYPAD 人とモノコトをつなぐインタラクティブ・デバイス》
–WA!SKはどのように生まれたんでしょうか?
橋本:WA!SKはもともと「おめん遊び」というアイデアから始まったんです。おめんを並んでかぶったらかわいいよねっていう、本当に直感的なものから。福笑いの話とかもしてて、そういうものから派生していって。その後に、テクノロジーとしてラズベリーパイを組み合わせて、しゃべれるおめんとして仕上げました。当初はもっと壮大に、喋った言葉が翻訳されて、みたいなことを考えてたんですけど(笑)、結果的にシンプルになって、それがよかったんだと思います。
《WA!SK かぶって話すと声が変わる不思議なマスク》
《WA!SKアプリ 色とカタチでおめんをデザインできるiPadアプリ》
佐々木: PPPでは、必ず手で触るとかクラフト的なことを意識して取り入れていて。デバイスがあったとしても、何かもう一つ、クラフトを組み合わせることで、単純に面白いし、体験に「奥行き」が生まれたり、得られる経験の情報量っていうのが全然変わってくるので。手をかざすと絵が動く、とかだけじゃ、いくら映像がリッチだとしても全然情報量としては少なくて。僕らは、遊びの体験の奥行きをどう出せるか、あとはシンプルにどうやってゴールまで到達できるのかをデザインするイメージでいつも作っています。
《GRAFFY お絵描きをアニメにするジェネレーターアプリ》
橋本:GRAFFYのきっかけは塗り絵からですね。
佐々木:そういったキーワードがいくつか常にあるんですよ。折り紙とか、おめんとか塗り絵とか。あとは、なんかラインを引くだけで楽しいよねとか、そういったキーワードがいくつか浮遊している中で、たとえば何か仕事の相談を頂いたときとか、テクノロジーがきっかけになったりとかして作品が生まれる。そんないいサイクルがずっと続いています。
遊びを考える
–どういったものからインスピレーションを受けますか?
佐々木:PPPは遊びがテーマなので、遊びからですね。どんな遊びがあったら面白いだろうっていう、遊びを考える。テクノロジーを使ったインタラクティブな演出とかは、僕ら以外にもやっている方が沢山いらっしゃいますが、じゃあPPPはどこが違うのか、僕らの立ち位置はどこなのかっていうと、常に遊びと向き合っていて、遊びを通した体験のデザインをずっとやってきているところなんです。
–PPPにとっての「遊び」とは何でしょう?
佐々木:うーん、遊び。なんだろうな、僕らもそれはずっと答え出てないんですよ。やりながら、こういうことかなって探っていく感じなんですけど。
理屈っぽく言うと、子どもってなんでも遊びから吸収するとか、遊びってコミュニケーションなんだっていうことなんですけど、もっとシンプルでいい気もするし、それだけじゃない気もしています。
橋本:遊びながら学べる、っていうもありますね。ただ学んだり感じるよりも、遊びという枠組みの中でやっていった方が絶対吸収力とか理解力とか、今後成長する上で必要な要素をいっぱい含んでいると思います。
佐々木:いろいろな面があるからねえ。
橋本:僕らがあえてやるというのはたぶんそういうところで、WA!SKにしても遊びの中から色とかたちを覚えていく、そういうところまで考えて落とし込んでいるので、そこの体験の精度をもっと深めていきたいですね。
遊びって昔からある原点的なものだと思っていて、いまの時代との違いといえばテクノロジーというのが出てきたところかなあと。
佐々木:原始時代にも石を積むっていう遊びがあったり。
橋本:縄文時代は土偶を作って壊したりとかね。
佐々木:そうやって壊すことで固さだとか、原理が分かったり、そこから学びになるんですよね。原始人のひとは遊びと思ってやってなかったかもしれないけど(笑)、それが日常にフィードバックされて得るものがある。僕らがその遊びを提供することで、楽しんでくれたひとが、新しい視点を持って、違った見え方とか、何か得るものがあったり。遊びは言葉や文化に関係なく世界共通なのもすごく重要なことですね。
橋本:あとは単純に自分たちが楽しいもの、というのがありますけどね。それが一番大きいですね。それ自体が遊びに繋がるというか。ずっとエンターテイメントを提供していて、それが僕らの原点でもあって、なんでそれをずっとやっているのかといったら、驚いたり感動したり笑ってもらったり、そういうのをやりたいからなんですよ。
遊びとテクノロジーのこれから
–これからの遊びとテクノロジーの関係はどうなっていくと思いますか?
橋本:もっと一体化していくんじゃないですかね。ちょっと前までだったら切り離されて考えられていたと思うんですけど、それがいまはiPhoneがぽんって置かれるようになって。今じゃ一歳児とかが触って遊んでるんですよ。テレビもタッチしたりしてて、できないからって言うんですけど(笑)。
だからこれからは、子どもたちはテクノロジーに対するリテラシーが高いのが当たり前という前提で時代が進んでいくと思うんです。僕らがiPadをその辺に置いてたら、知らない間に子どもはほとんど操作できてますからね。
–子どもたちにとってスマートフォンが身近になっていく中で、それを危険視する声もあるかと思いますが、それについて何かお考えはありますか?
佐々木:それってどの時代のツールでも起こる話かなと個人的には思っていて。いまそういう問題が起きたから、じゃあテクノロジーが悪い、みたいな考え方ってナンセンスというか無駄な気がするんですよね。それに対して何にも対策打たないのはダメですけど。将来的にも新しい技術が生まれたら同じ問題が必ずあるし、リテラシーについて熱く語るよりも、もっとポジティブな面を引き出してあげて、そのよさを伝えることで逆にリテラシーを高めるというか、楽しみながら正しく使うことが大事だと思うんです。
たぶんケータイの問題じゃなくて、人の気持ちを思いやれるかとか、そういうところじゃないですか。うちの子どもは小学生で、妖怪ウォッチのメダルがどうこうとか、大したことじゃないですけれどちょっとしたトラブルはあるんですよ。それって、僕らの世代ではビックリマンチョコでもあった話で(笑)、それはたぶんニンテンドーDSがどうこうっていう問題じゃなくて、もっと根本的なことをどうにかしないといけないっていう話だと思うんですよね。
PPPこども研究員
橋本:佐々木君の子どもはいま何才だっけ?
佐々木:上が7才、下が4才。
橋本:PPPの社員候補ですよ(笑)。小さい頃から見てるんですけど、いまは手伝うようになったんですよね。「僕が手伝う」って自分から言って。PPPやってて、お互いの子どもの成長が見れるんですよね。
佐々木:最初から遊びに行くっていうより仕事を手伝いにいくつもりで来ますね。
–作品を作る時に、お子さんの意見を参考にされてたりしますか?
佐々木:ワークショップの現場ではじめて作品を子どもに遊んでもらう時に、ああそういう風に遊ぶんだっていうような、僕らが考えもしなかった遊び方とか面白いバグが生まれたり、いろんな発見があって、それがフィードバックにはなってますね。
冗談半分で言うと、子どもに「こども研究員」みたいに入ってもらって、その研究員と一緒に遊びを考えるみたいなことができるといいなって思ってるんです。
橋本:そうそう、子どものスタッフもありだと思って。ひらがなブランディングもそこにつながってるんですけど、こどもにも読めるようにして。できればPPPファンの子どもができたり。
佐々木:ワークショップとかで名刺渡すことも本当にあります。こどもたちと一緒に作れたらいいなって思います。
《PPP名刺 大人にもこどもにも渡せるユニバーサル名刺》
–こどもに言われてはっとしたこととかありますか?
橋本:7才ぐらいだとつっこみが鋭いよね。
佐々木:基本的にいろいろ言われちゃいますね(笑)これがあったほうがいいとか。
橋本:大人の場合は、腕組んでふむふむみたいに、頭で考えて見てるだけなんですけど、子どもは実際に触ってやりはじめるんですよね。そこは大きく違います。
デザインする、ということ
–WA!SKの特徴として、気軽にデザインの感覚を学べる、といったところがあるかと思うのですが、デザインを学ぶということについて、どのようにお考えですか?
佐々木:広義の意味で言うと、デザインってグラフィック的なことだけじゃなかったり、視点そのものだと思うんです。子どもだったら、「何時に友だちと待ち合わせしてどこでなにをやれば今日最高に楽しく過ごせるか」っていう、それもデザインだと思います。子育てもデザインだし、電車の運行時間も、全部デザインで成り立ってるんですよね。だから、全然デザインやアートを知らないっていうひとだって、一日中デザインになにかしら触れているし、デザインしてるんです。それが、WA!SKのときはおめん遊びというかたちをとっていて、そういう体験をしてもらっていますけど、PPPとしては、グラフィック的な素養をつけてもらうだけじゃなくて、視点とか、もっと広い意味でのデザインを学んで、なにかそういうものを得てもらえる作品を作れたらすごくいいなって思います。
橋本:異論ないです(笑)。
佐々木:(笑)。基本的に僕ら全然考え方が違うタイプなんでけど、さんざん話し合いながらやってきてるんで、PPP的な考え方というか、目指したいところは共有できていて、だからこれまでやってきてるっていうのがありますね。
橋本:他のメンバーの岡崎さん(※岡崎智宏さん アートディレクター/デザイナー、SWIMMING代表)と山家さん(※山家明さん 建築家/空間デザイナー、mountain house architects代表)も、それぞれ独立した考えがあって、それぞれ違った考えを持ち寄って、PPPとして作品を作ってるんです。そういうひとをもっと増やしていきたいですね。建築家がいて、デザイナーがいて、ディレクター、エンジニアがいて、どんどん増えていけば、もっと広い遊びが作れるようになる気がする。
佐々木:みんながそれぞれ吸収したものを、PPPという公園のような場所に持ち寄って、アウトプットしている感じです。
絵本について
–普段お子さんに紙の絵本の読み聞かせをされたりしますか?
佐々木:そうですね、けっこう定期的に買います。おもしろそうな絵本があれば買って、家にそっと置いといて、子どもの反応をあとで聞くっていう僕の遊びなんですけど(笑)。大体僕が帰ったらもう子どもは寝てるので。普段家になかったものが加わると、だいたい子どもはすぐに見つけるんですよね。
橋本:僕は子どもが0歳のときから、毎年板橋美術館のボローニャ展に行って絵本を見させたりしていますね。海外の絵本ってセンスがよかったりするので、ああいったものに触れさせてセンスを培ってくれたらいいなと思っちゃいます。
–どういう絵本が好みですか?
佐々木:僕は加古里子さんがすごく子どもの頃の記憶として残っていますね。カラスのパン屋さんとか、だるまちゃんとか。子どもの頃は、それが加古里子さんとは知らずに読んでたんですけど、大人になって加古里子さんの他の作品とかをいろいろ知って。加古里子さんって、遊びの研究もしてるんですよ。日本中の鬼ごっこをフィールドワークして集めた大人向けの本とかあるんですけど、科学的な視点とか、いろんな側面があって面白いですね。
橋本:レオ・レオニとか風刺的でいいですよね。絵もかわいいし、メッセージもあるし。ブルーノ・ムナーリとかも。かわいい絵でメッセージ性あるものがやっぱりいいですよね。ブルーノ・ムナーリはけっこうPPPの要素に近いというか、尊敬してる感じですね。
これからのデジタルえほん
–これからデジタルえほんはどうなっていくと思いますか?
橋本:えほんといえばデジタル、といったように、完全に一体化して端末がそれを見るためのプラットフォームになるんじゃないですかね。もちろん、紙もまだ残ってるとは思いますけど、必然的にそう向かうんじゃないかなあと。CDがmp3に取って代わろうとしているのもそうだし、時代が変わっちゃうのはしょうがないと思うんです。僕らは別に推奨はするわけではないんですけど、それが普通になっていくと思います。その中で、たぶん作家さんもそれぞれ作り方が変わってきますよね。デジタルえほん作家が増えていって、それが当たり前になっていって、今の時代のブルーノ・ムナーリだとかレオ・レオニみたいな、ああいうひとがどんどん出てきてくるんじゃないですかね。
佐々木:音楽に関して言えば、レコードの方がゆらぎがあるとか、mp3ってスカスカだよねとか。音の聞き分けをする人っていうのも限られてくるじゃないですか。でも今はハイレゾだったり、テクノロジーがリアルを補完できるようなものも出てきてる。
橋本:まだハードが追いついていないと思うんですよね。もっともっと薄く、自然で身近なものになってきたら、絵本がデジタルえほんに統一されていくというか。
佐々木:それが理想の未来かどうかは分からないですけどね。手触りまでデジタルえほんから伝わるようになって、テクノロジーがリアルの伝えきれてないことも補完できるくらいにきっとなると思うんですよね。
–今後、産業としてのデジタルえほんはどうなっていくと思いますか?マネタイズの問題がよく取り沙汰されていますが。
佐々木:まだコンテンツとテクノロジーが一体化してないから、どうしてもそうなっちゃいますよね。
橋本:かといって絵本作家がそういうのをやりたいとは限らないじゃないですか。だからこれからは若手じゃないですかね、10代20代のひとが参入していくというか。
佐々木:普通に高校生とか小中学生がアプリ作ったりするわけじゃいですか。そういう子たちが、テクノロジーを使って何をしたいかっていう時に、デジタルえほん作家になりたいってひとが出てくるんじゃないですかね。
–これからのPPPのご予定としてはなにかありますか?
佐々木:毎年あたらしい作品作りたいですね。
橋本:できたらまた次回応募します。
-ありがとうございました。
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最後に、PPPの由来についてお聞きしたところ、
「playのPです。play play play、遊びの連続であり、集合であり、広がりです。
Pは破裂音なので、こどもが発音しやすい音とリズムという事もこの名前にした理由です。」
とお答えいただきました。
PPPのみなさんが提案する遊びのかたち。これから、どんなこどもたちをわくわくさせる作品が生み出されるのかとても楽しみです。
(ほりあい)
第2回、第3回と、2年連続で企画部門審査員特別賞を受賞した佐藤ねじさん。第2回の「話せる絵本 どうぶつほうもん」、第3回での「路上絵本」は、どちらも子どもへあたたかいまなざしと、思わずクスッとさせるようなユーモアに溢れた、受賞も頷ける企画作品です。
デジタルえほん社では、今年も受賞者の方々にインタビューを実施しました。今回はその第一弾。第3回デジタルえほんアワード、受賞者インタビューシリーズのはじまりです。
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《佐藤ねじさんインタビュー》2014/10/31(聞き手:堀合俊博)
デジタルえほんアワード受賞、その後
−−2年連続受賞おめでとうございます。
ありがとうございます。
−−1回目の受賞となった第2回デジタルえほんアワードへの応募のきっかけは何だったんですか?
社内でちょっとした勉強会をしているときに、何かアウトプットが合った方がいいんじゃないかということで、誰かがデジタルえほんアワードの話を持ってきたんです。それでみんなで応募しようかという話になって、それがきっかけです。
−−受賞されて反響とかはありましたか?
そうですね、もちろん反響もありましたけど、自分自身の変化が大きかったですね。自分には子どもがいて、日頃絵本は読んでいたんだけれど、デジタルえほんっていうジャンルはあんまり自分とは関係ないものと思っていたんです。応募した企画も、このアワードのために作ったというよりも、もともと別のかたちでやろうと思ってた企画だったので。
そんな中、受賞したことによって自分のなかでデジタルえほんというカテゴリーがすとんと入ってきた。その変化が大きかったですね。
−−最初デジタルえほんに対してどんな印象をお持ちでしたか?
世間では、デジタルえほんって言ったときにiPadやスマホの中で、プログラムによって動くインタラクティブ性がある絵本、という風に定義されているんじゃなかなあという感じはしていました。でも、ぼくはデジタルの領域で絵本以外にいろいろ作っているというのがあるからですけど、デジタル=スマホ・パソコンという風にはならなくて。もっと広く捉えて、むしろその画面の中から出ていくものが面白いっていう考えはありました。
−−受賞された「話せる絵本 〜どうぶつほうもん〜」「路上絵本」も、そういった画面から飛び出す発想から生まれたものでしたね。
佐藤ねじさんはお子さんがいらっしゃるということで、普段の中で子育てとデジタルの関係で気をつけていることなどはありますか?
ひとによってはスマホに触ることを縛ったりとかはあると思うんですけど、ぼく自身が仕事的にもすごく触ってるので、だからっていう訳でもないですけどあまり変に避けることはせず、特に何もしてないですね。
むしろ子どもがどういう使い方をしているのかを見て楽しむというか(笑)。ああこういう風に子どもは触るんだとか、2歳児でもこのインターフェースは分かるんだとか、そっちの方に興味があります。
《第3回デジタルえほんアワード企画部門審査員特別賞受賞作品「路上絵本」》
子育てと創作活動
−−お子さんが生まれる前と後では、創作活動に変化はありましたか?
基本的には何も変わってないと思うんですけれど、子どもができてから3年一緒に過ごして考えることは、これはもうかなり違いますね。こども向けの制作に関しては、子どものインサイトというか、気持ちだったり、子どもを持つ親の気持ちが分かるようになったので、変化はあったと思います。まだ子どもがいない時は、だいたいこんなもんだろうと高をくくって、結果的に自分を含め大人が楽しめるような凝ったものにしようとしてしまいがちなんですね。だけど実際にはそんな必要はなくて、極論ただアンパンマンがぽんっと出ればそれだけで子どもは十分満足してくれるって場合もあるので(笑)。逆にあんまりやりすぎない方がよかったりするっていうことは、子どもが出来てから感じることですね。
違う土俵での戦い方
−−ねじさんと言えばアイデアメーカーという印象があります。ご自身のアイデアの特徴やテーマ、こだわりはどんなところだと思いますか?
「隙間」というか、「違う土俵で戦う」ということですね。みんなが集って注目している技術とか、流行のジャンルがあると思うんですけれど、あんまりそこで頑張る気が起こらないんですよ。どちらかというと、あまり人が注目していない「隙間」をみつけることに力を注いでいます。すごくクオリティの高い感動の3D映像!っていうのはまったく作ろうとは思わなくて、むしろその1/10の技術しかなくても、3Dの使い方を変えて軸をちょっとずらす、という考え方です。
そういうのを“ブルーパドル”って読んでるんです。パドルっていうのは水たまりのことです。ブルーオーシャンを見つけようっていうのは、例えばARが無かった頃にARを見つけるみたいなことなので、ぼくは技術者でもないのでできません。そうではなくて、逆にもう使い古された、散々やられつくされたと思われている領域の中から、「まだあったんだ!」っていう驚きを発見することに燃えますし、やりがいがありますね。
絵本もある種そういうジャンルで、伝統的なものだし、脈々と続いてきた歴史があるので、そこで戦うわけではなくて、絵本っていう文脈をインストールした上で、ちょっと違う配合をする。
ぼくの中での解釈としては、絵本は最低要素としての絵と文字がなんらかのかたちで存在していて、ちょっとしたフィクションや教えがあるものなんです。絵本の中には、どうぶつの鳴き声だけとか、日常の中のある一点をぽんっと置くような、これでいいんだってぐらいあっさりとしたものもありますよね。でも、こどもにとってそこから知ることってすごく多いんですよ。銭湯の絵本を読んで、銭湯に行きたいということがあったり、世界を知る最初の入口だったりする。
そうやって、絵本の定義を自分の中で発見していくと、絵本の最大公約数というか、どこまで省略していって絵本が成立するか、というところになるんです。実際考えていくと、隙間だらけのように感じるんですね。今回出した「路上絵本」もそうですし、あれだけじゃなくて、他にも実はまだいっぱいやりたいことありますね。
アイデアメーカーとしてのルーツ
−−そういった新しい視点でだれかを驚かせたい!という発想は、小さい頃に何かルーツがあったりするものなのでしょうか?
クラスで絵が上手いやつっているじゃないですか。そんな、一番絵が上手いやつにはぼくは絶対なれなかったんですよ。まあまあ上手いところにはいたんですけれどね。
絵がうまいやつが何で評価されるかといったら、ぼくの頃だったらドラゴンボールの絵を上手に書けるとか、そういう人がやっぱり人気が出るんです。ぼくはそこまでうまくなかったので、こそこそとオリジナルのマンガを書いてたんですよ。そのころから思っていたのは、いくら絵が上手くても、それは鳥山明先生の作品だと(笑)。それは鳥山明先生が偉いのであって、君はただ模写するだけのスキルがあるだけだ、と思っていました。その頃からオリジナルに対しての思いはすごいありましたね。
−−子どもの頃はどのように育ちましたか?
平々凡々とした家庭だったと思います。ぼくってほんと普通なんですよ(笑)。佐藤で、A型で、次男で、親は公務員で、勉強はまあまあの成績、マンガはドラゴンボール、音楽はブルーハーツとか聞いて。そんな感じでずっと普通だったんですけど、昔からアイデアを考えるのは好きで、変なことを言う子だったって、よくおばあちゃんとかに言われますね。
高校生ぐらいのときにデザイナーの道にいこうかなと思って、本をたくさん読んだんです。そのときに、たとえば『デザインの現場』などを通してクリエイターを知り始めて。
そのときに知った佐藤雅彦さんが、いまに繋がる一番大きな影響を受けた人です。佐藤さんは「考え方を考える」ということをずっと言っていて、新しい考え方の発想法を作れば、新しいものは生まれるっていう、その考え方自体にすごく影響を受けて、それはずっと脈々と続いていると思います。
『佐藤雅彦の全仕事』っていう本の後ろの方の巻末に、佐藤雅彦の発想法10コみたいなのがあるんですよ。はじめてそれをみたときには、「やった、手に入れたぞと!」と思ったんですけど(笑)、実際にそれを使って発想しても、あんまりいいアイデアが出なかったんです。
その時はわからなかったんですけど、それはあくまで他人の発想法で、自分にインストールして意味は分かっても、なかなか肌に合わないと使えなかったりするんですよね。
「普通」から5度ずらす
−−佐藤さんの中で「普通」とは一体どういったものでしょうか?
常識を知らないと非常識は作れないじゃないですか。デザインも、ちゃんとしたデザインを作れるようになるから奇抜なものも作れるし、その「ずらし方」が分かる。その構造や方式は、発想法にも全部通じていると思うんです。
奇抜な発想って、普通に対して180度逆転の発想みたいに言うけど、180度回ると意外と普通に見える。そうじゃなくて、5度ずらすとか、9度ずらすみたいな、そういうものの方がおもしろいかなあと。パッと見た感じ普通だけど、なんかおかしいみたいな。そういった「違和感」は、0度である普通を発見しないと、わからないと思うんです。
−−日々の中で、アイデアを出すために特別にしていることはありますか?
アイデアは、普段スマホで貯める場所を決めていて、そこに書き溜めたものを週末にノートに書き写すようにしています。ぼく、メモ魔なんですよ(笑)。ノート術とか、ああいうのが大好きなんですね。どうメモするかということにずっと常にライフハックを繰り返すというか、それ自体が楽しいんです。「INTERESKINE」は、アイデアメモそのものが一個のコンテンツになるんじゃないかなというひとつの実験ですね。自分で使えないなあというアイデアの一部をあのサイトに無料販売すればいいなあと。
《アイデア無料販売サイト「INTERESKINE」》
−−どういうときにアイデアを思いつきますか?
思いつかない時っていうのはなくて、思いつかないときはメモができない状態にあるときというか、そんな感じです。まあつぶやきに近いんですよね。いいつつぶやきはいつ思いつきますかって言われても言えないじゃないですか。
−−「さいごの世界大戦」や「今日は2011年3月10日かもしれない」など、社会派とも言える作品はどういった経緯で生まれたのでしょうか?
もともとは個人プロジェクトで、マイルールとして、佐藤なので3月10日になにか作ろうというのがあったんです、前の年は佐藤フィルターっていうのを作って。次になに作ろうかなってぼんやり考えた時に、そもそも3月10日って311の前だよなあと思って。
《いろんな場所で「佐藤さ~ん」と呼んで、どれくらい「佐藤」がいるか確認する「佐藤フィルター」》
けっこう震災に対しての思いはあったんです。でも、やっぱりああいったものを出すと、強い批判も当然来るじゃないですか。それに対してどきっとはしたんですけど、同時にやっぱり世に出すことはやっぱり責任があるんだということを再認識しました。いまはネットでみんな軽く世に出しちゃうから、その感覚が薄れがちだと思うんですけど。自分の中に軸がないといけないなっていうことはすごく思いました。
ぼくは僕自身をアーティストという風に定義していないんですけど、こどもができたこともあって、何か社会的なことに対してぼんやり思うものもあったんです。それは自分の中でツイートに近くて。ちょっとおおげさなツイートというか。だから「さいごの世界大戦」も、あれはRTなんです。みうらじゅんさんの言葉があって、めっちゃいいじゃんって思って、RTをした。その仕方をちょっと大袈裟にした。
《「今日は2011年3月10日かもしれない」
「明日」「無事」「福島」「おにぎり」のツイートを地震の前後で比較することができる。》
《「さいごの世界大戦」》
ぜんぜんぼくはそこに深い知識があるわけでもないし、批評家みたいなことはできないですけど、そこに身を投じていくことで、思考が深まるというのもあるし、逆にまったく触れないのも変だなって感じがします。
「絵本なのか何なのか分からないけど、変なものをちょこちょこ出してるおじさんがいるね」っていう、そういうのになりたいですね(笑)
−−これからの目標がありましたらお聞かせ下さい。
こどもと一年に1回作るとか、何個かシリーズがあるんですけど、絵本も今後やっていきたいですね。デジタルえほんアワードがあったおかげで、そのジャンルが自分にインストールされたので。たとえば10年ぐらいやり続けてると、何かひとつ磁場が生まれるんじゃないかと思います。「絵本なのか何なのか分からないけど、変なものをちょこちょこ出してるおじさんがいるね」っていう、そういうのになりたいですね(笑)。
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佐藤ねじ式発想法についてのお話を聞くことができた、とても貴重なインタビューとなりました。クリエイターの方には参考になる部分たくさんあるのではと思います。
なんと、その後「路上絵本」の企画が実現化されたとの嬉しいお知らせを頂きました。今後はワークショップの展開なども思案中とのことです。
わたしたちをクスッとさせてくれる佐藤ねじ式アイデアの、さらなる活躍を期待しましょう。
(ほりあい)
※第2回デジタルえほんアワード審査員特別賞「話せる絵本 どうぶつほうもん」過去の紹介記事はこちら