こんにちは!国際デジタルえほんフェア運営事務局です。
今年も去る8月29日(土)30日(日)に、ワークショップコレクション11の中で「国際デジタルえほんフェア2015」を行いました!夏休み最後の土日、取り壊し予定のビルで行ったワークショップコレクション11は大盛況、デジタルえほんフェアブースも大盛況でした。当日の模様をレポート致します。
Hello! We are the Digital Children’s Book Fair Committee.
‘Digital Children’s Book Fair’ was held at Workshop Collection 11 on August 29th (Sat) and 30th (Sun). This year, the event was held on the last weekend of the summer holiday at the two buildings that were expecting to be pulled down. Workshop Collection 11 as well as Digital Children’s Fair Booth ended with great success! Please find the event report from the link below.
デジタルえほんアワード受賞者インタビューシリーズ、3回目の今回は、第3回デジタルえほんアワード作品部門準グランプリの『きりえほん 〜しんかいさんぽ〜』の作者石川由貴さんと、同じく作品部門入賞をはたした『コロリロン』の作者海親(みちか)さんのインタビューをお届けします。
受賞者のお二人はなんとまだ女子大生。
今年の春に卒業を控えた、女子美術大学に通われている大学4年生です。
プロ顔負けのすばらしいデジタルえほんが生まれた経緯をうかがいました。
*********************************************************************************************************
《石川由貴さん&海親さん インタビュー 2014/11/12》(聞き手:堀合俊博)
受賞作品ができるまで
–この度は、石川さんは準グランプリ、海親さんは入賞ということで、おめでとうございます。受賞後に反響などありましたか?
海親さん(以下敬称略):Facebookとかでお知らせしたら友だちが見てくれて。受賞のニュース見たよとか、写真載ってたねとか言ってくれて、結構驚きました。
石川由貴さん(以下敬称略、石川):地元の友だちに話したら、実際にアプリをやってみたいということでダウンロードしていただいて。さらにAppStoreでコメントまで書いてくれて、すごく嬉しかったです。
–今回の作品は、女子美術大学での季里先生の授業で制作された作品とうかがいました。お互いの作品についてどのような印象をお持ちですか?
海親:彼女の作品は、こうやってデジタルえほんになる前に、別のかたちでもう既に作品になっていたので、それがまたデジタルえほんという別のかたちになったのが面白いと思いました。あと、授業では作品作りと一緒に子ども向けのワークショップを実施するんですが、そこで切り絵を作って子どもたちと一緒に紙に貼るワークショップをしていて、デジタルえほんとはまた別のかたちでとてもいいなあと思いました。
石川:私も彼女が作っている最中から横目でちらちら見ていたんですけど、すごい絵がかわいくて。作品の中に登場する海牛?のキャラクター(リロ)ががすごく好きなんです。モノクロで統一された世界の中で、かわいいキャラクターたちを魅力的に見せるのはすごいなあと思いました。あと、四角形をタッチするだけっていうわかりやすく、簡単な操作だけで、いろんなアクションをできるところが好きです。
–それでは、それぞれお二人の作品について伺っていきますね。
石川さんの作品『きりえほん』は、以前に制作されたアニメーションをデジタルえほん化した作品とのことですが、そうしようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
石川:もともとは昔作った切り絵のコマ撮りコマドリアニメ−ションがあって、季里先生からこれをアプリにしたらもっと面白くなるんじゃないかなとアドバイスをいただいて、それでやってみようと思ったんです。
–制作の際にアニメーションとアプリの違いとして、気をつけたことはありますか?
石川:季里先生に、デジタルえほん化をすすめられたときに、切り絵自体のシルエットが、「一体これは何の生き物なんだろう」といったように、子どもたちの想像力を駆り立てるようなことができる絵本になるんじゃないかとおっしゃっていただき、そのことを意識しながらデジタルえほんとして制作しました。はじめてのアプリ制作だったのでなかなかやりたい動きができなかったり、あまり細かい所をつめすぎちゃうとアプリの動作が重くなってしまったりと、うまくバランスをとるのが難しかったです。
–深海のモチーフを選ばれたのはなぜですか?
石川:「メンダコ」っていう深海のタコがいるんですけど、小さい頃に深海の生き物についてのテレビ番組でそれを知って、すごく可愛くて。そこから深海に興味を持ったんです。
最初にコマ撮りで切り絵のアニメーションを作る時に、深海ってどんな生物がいるかがわからないので、シルエットでやった方が見てくれる人が想像してくれるかなと思ったんです。「まだ見ぬお魚がいるんだぞ」っていうこと伝えられたらなと。
《石川由貴 「きりえほん 〜しんかいさんぽ〜」》
–最初の方はページナビゲーションがある作りなのですが、途中からそれをなくし、登場するアンコウに導かれるかたちになっていますが、そのように制作された意図はどういったものなのでしょうか?
石川:読み手の人にいろんなところをタッチしてもらって、ああここも動くんだって、反応するんだって気づいてもらいながら、道を探してもらおうという意図で、途中からページめくりのナビゲーションをなくしたんです。ただめくっているだけじゃつまらないなあと思ったので、何かが動いたら反応して、次のページに進むっていうかたちにして、冒険感を出してみました。そこを気づいてもらえなくて、これで終わりなのかと勘違いされたらどうしよう…と自分でも不安なところがあったんですけど、気づいてもらえてるようでよかったです。
–ありがとうございます。それでは、海親さんの『コロリロン』について伺っていきますね。
はじめから、動く四角形に導かれるかたちで鑑賞するしくみになっていますが、こういった設計はどういったアイデアからきたのでしょうか?
海親:制作をしていくうちに、動くものってすごく押したくなるなあっていうことが分かったんです。そこから、ナビゲーションとなる四角形を最初から動かすようにしたりとか、自然なかたちで四角形を押すことをわかりやすくするようにしていました。
《海親 「コロリロン」》
–色彩をモノクロで統一したのは意図として何かありますか?
海親:アプリでデジタルえほんを作るとなったときに、アプリの機能に慣れる試作の段階で灰色が気にいったんです。そこから、灰色中心にパーツを作っていったんですけど、それをご覧になった先生がけっこう気に入って下さって。最初は灰色の中にも少しだけ水色とか入れようと思っていたんですけど、それはしないほうがいいんじゃないかとおっしゃっていただいて、作っていく中で自分でも全体の雰囲気や色彩の見え方の具合からその方がいいなと思ったので、モノクロで統一しました。
–作品の独特な世界観に何かコンセプトなどはありますか?
海親:デジタルえほんというよりは、アプリを作りたいという気持ちが大きかったので、ゲームとかおもちゃ感覚で楽しんでもらえるものがいいなと思って作っていきました。昔好きだったフラッシュの作品で、クリックしたら反応するだけのものがあったので、そういったものを思い出しつつ作った部分もあります。
–デジタルえほん作品の中にはしばしばゲーム性のようなものが盛り込まれた作品が見受けられるのですが、ゲームとデジタルえほんとの関係についてどう思います?
海親:ゴールに行ったときに、そのゴール自体も正解だって思えるか否かという感じですかね。ゴ−ルに行って、これは完全に失敗だと思ったらそれはゲームになっちゃうんじゃないですか。ゴールが失敗だったとしても、それが物語、絵本の内容として、これでよかったなという気持ちになれたら、それは絵本になるんじゃないですかね。
言葉のないえほん作り
–これはお二人の作品に共通して言えることかと思いますが、作品の中で言葉を用いないといことに、何か想いや考えはあるのでしょうか?
石川:私は、タイトルである『しんかいさんぽ』の通り、深海を自由に散歩しているイメージだったので、そこに言葉はいらなくて、読み手である人たちが、それぞれの目線で作品の中で登場するあんこうなどの生き物たちが何か言っているように感じたり、それぞれストーリーを自分の頭で考えて欲しいなという思いがあったので、あえて言葉はいらないかなと。
海親:私は、いろんなひとに楽しんでもらいたいなという思いがあります。今回のデジタルえほんアワードでも世界中の作品が集まっていたかと思いますが、海外の作品で言葉が中心となるものに関しては、やっぱり言語の壁があるなあと思うんです。子どもたちにとっては、特に読まなくても楽しめる場合もあると思うんですけど、おとなというか私からするとそれが気になることが多くて、それなら最初から読むっていうことを無くしてみるのもありかなと思ったので、『コロリロン』ではそれをやってみました。
絵本を読むこと、つくること
–普段絵本は読みますか?
石川:はい、私は子ども向けのかわいい感じの作品が好きで、そういった表現には興味があるので、普段の制作も子ども向けのような絵柄のものが多いです。
海親:私は子ども向けのものが好きというよりは絵本が好きですね。
–好きな作家さんとかいますか?
石川:私は誰にでも親しみやすいような絵のタッチが好きで、マンガやアニメから影響されることが多かったりするんですけど、そうですね、たとえばジブリアニメーションの絵が凄く好きで、けっこう影響されたかなあと思います。
海親:もともと好きだった絵本だと、「ぐりとぐら」とか、いせひでこさんの絵本とかがすごく好きですね。本を造るおじさんのはなしの(「ルリユールおじさん」)とか、「にいさん」っていうゴッホのお話とか、けっこう大人向けっぽい絵本を書く人なんですけど。制作の時は結構いろいろな絵本を見てたので、作品にはそれらが混ざって影響されているかもしれませんね。
–制作の際には、鉛筆や絵筆などといったアナログな手法と、ペンタブレットなどのデジタルツールを使ったものと、どちらを使用されることが多いですか?
海親:最近だとデジタルの方が多いですね。
石川:どっちも好きなので同じくらいです。
–制作プロセスや出来上がってくる作品において、アナログとデジタルの関係性はこれからどうなっていくと思いますか?
海親:最近はアニメーションも手描きよりもパソコンで最初から描いてるものや、3Dアニメ自体もけっこう増えてきたかと思います。アニメの中に3Dが混ざっていたり、全部3Dで作っていたり。これからもっとデジタルのものが増えていくとは思うんですけど、だからといってアナログが完全に消えるというのはないんじゃないかなあと思います。やっぱり好きな人がかならず残ると思うので。
石川:確かに、和紙とかも話題になったりしているので廃れたりはしないと思います。
–これからデジタルデバイスが当たり前のものになっていく中で、デジタルえほんはどうなっていくと思いますか?
石川:デジタルは動きや反応がリアルタイムで得られるものなので、子どもたちにとって刺激になると思うんです。それはそれでいいと思うのですが、紙の本を実際に自分でめくったり、現実の動作で楽しんだり、ものの質感からも作品のオーラというか、そういったものが伝わってくると思うので、それはそれで両方ともあって欲しいなというのが私の気持ちです。
海親:デジタルえほんは、押したらスマホの中で反応が起きるっていうタイプの「しかけ絵本」だと思うんですけど、紙のしかけ絵本って、紙の端をひっぱったり、自分で動かすものじゃないですか。その違いがあるので、両方残って欲しいという思いがあります。
–お二人にとって、デジタルえほんとはどういったものでしょう?
石川:絵本界の未来への架け橋…みたいな。
海親:私は、紙のえほんにもデジタルのえほんにもいいところはあって、そこまで大きな差をつけるものなのかなという気持ちにもなります。流通の問題とか、お金の問題だとか差はけっこうあるのかなと思うんですけど、絵本として楽しむという観点でいうとそんなに差はないのかなって思います。
–それじゃあ、絵本ってどういうものなんでしょう?
石川:作者の思いを絵で具現化したもの・・・ですかね。
海親:私の場合、作品自体が自分の手元から離れた場合は、結局は全部相手の受け取り方次第になってしまうと思っています。自分がこう思って書いた、っていう場合でも、ひとによってはぜんぜんそういう受け取り方をしなかったりもすることもけっこうあると思うので。なので、絵本も積み木やぬいぐるみみたいに、持っている人が自由に楽しむおもちゃみたいなものなのかなと。
石川:たしかによっぽど伝えたいことがなければ、相手の想像に任せる感じ、ですかね。
–今後どういったものを作っていきたいですか?
海親:絵本みたいな絵柄とか、お話、謡みたいな雰囲気が好きなので、そういった雰囲気のある作品をまた作っていきたいなと考えています。
石川:私は、作品を見た人が楽しい気持ちになって欲しいという思いが強いので、多くの人にいろんな面白いものを体験してもらえるような作品を作りたいと思います。
–ありがとうございました。
*********************************************************************************************************
デジタルえほんアワードがはじまってから3年、その歴史はまだまだ浅いのですが、このお二人のような若手のクリエイターが確かな“デジタルえほん観”を持ち、こんなにもクオリティの高い作品が生み出されているということに、私たち事務局としても大変励まされます。
次回はさらに若手、最年少受賞者のインタビューをお届けします。
(ほりあい)
こんにちは。
今週のデジタルえほん関連のニュースをご紹介します。
2月17日
・五味太郎さん「何を描いてるの?って聞かないで」 – 朝日新聞デジタル
・子どものスマホについて保護者座談会、利用開始時期や学割について聞く – ReseMom
・IBMのスーパー人工知能Watsonに接続して子供たちと会話するスマートおもちゃ登場 – TechCrunch
2月18日
・デジタルアーツ/「情報モラル教育学校に期待」 保護者7割近くに – ICT教育ニュース
2月19日
・プロの声優が読み聞かせ ママとどっちが上手かな~ – BIGLOBEニュース
・全小中学校にタブレット整備、塾代補助の拡大…大阪市が主要事業発表 – ReseMom
・幼稚園・保育園での子どもの様子でスマホで保護者と共有「みてみて通信」開始 – ReseMom
2月20日
・子どもがスマホでトラブらない方法 – & Asahi Shimbun Digital [ and ]
・ICT指定校で授業を公開 – 長崎新聞
・JEPA/EDUPUBの最新技術動向を説明するセミナー3月開催 – ICT教育ニュース
・Youtube、子ども向けアプリ「YouTube Kids」を2月23日に正式発表へ – ガジェット速報
五味太郎さんのインタビューがとてもすてきでした。
「YouTube Kids」のニュースは驚きですね。どういったサービスになるか期待したいです。
それでは、来週もどうぞよろしくお願いします。
(事務局)
こんにちは。
随分とご無沙汰してしまいましたが、デジタルえほん関連のニュースをご紹介します。
2月9日
・女子高生のスマホ利用平均時間は7時間…デジタルアーツ調べ – ReseMom
2月10日
・【ゲームのゲンバ】カプコンが全国5カ所に子供向け「あそび王国」 – 産経ニュース
・障害を抱える子供でも普通の勉強ができるように – ソフトバンクがICTで支援する「魔法のワンドプロジェクト」 – BIGLOBEニュース
2月11日
・たった50ドルの「知育ロボット」が子供の将来を変えるかも?- FUTURUS
2月12日
・ベネッセ/最新のニュースを読んで学ぶデジタル小学生新聞を開始 – ICT教育ニュース
・デジタルハリウッド大学院 × Makuake 『アイデア実現支援プロジェクト』を開始 ~IoTのモノづくりアイデアを支援~ – PR TIMES
・スマホ閲覧制限、店の説明不十分 親装い抜き打ち調査 – 朝日新聞デジタル
・脳に与える影響も心配…「子どもとスマホ」の賢い付き合い方 – マイナビニュース
・人気絵本作家tupera tuperaプロデュースのおもちゃ「かおレイヤー」2月12日発売!100種類以上の変身バリエでオモシロ撮影も可能 – 産経ビジネス
・2020年までに1人1台環境、保護者の約8割が方針知らず – ReseMom
2月13日
・Microsoft、イスラエルのデジタルペンメーカーを買収か -ITpro
・総合的なデジタル広告賞「コードアワード2015」3月受付開始 -ASCIIjp
・アプリがつくれるアプリ、親子で楽しめるアプリ『JointApps』(ジョイントアップス)に地図アプリキットが登場!-PR TIMES
・スマホで子どもを遊ばせる……乳幼児の保護者の3人に1人 – RBB TODAY
女子高生のスマホ利用時間が一日平均7時間というのはなかなか衝撃的ですね。
tupera tuperaさんプロデュースの「かおレイヤー」がとても気になりました。
それでは来週もよろしくお願いします。
(事務局)
第3回デジタルえほんアワード、受賞者インタビューシリーズ第二弾は、「子供に向けた未来の遊びをデザインしているクリエイティブチーム」である、PPPのクリエイティブディレクター橋本俊行さん、佐々木康貴さんのインタビューをお届けします。
PPPの「WA!SK」、そして「GRAFFY」は、それぞれ第3回デジタルえほんアワード審査員特別賞と入賞に選ばれました。ポップで洗練されたカラフルなデザインとテクノロジーが魅力のその創作について、おはなしをうかがいました。
*********************************************************************************************************
《PPPインタビュー》2014/11/10(聞き手:堀合俊博)
–アワード受賞後、何か反響などありましたか?
橋本さん(以下、敬称略):そうですね、周りへの影響が断然違うと思います。アワードでの受賞とか、そういった評価は今後ずっとついてくるものなので、大きいかなと思います。
あと、評価してもらったときにいただいたコメントが、ああなるほどと参考になりました。審査員の方々はいろんなもの見ている方達だと思うので、そういう人たちの意見をもらえたのはとても重要だと思います。
佐々木さん(以下、敬称略):WA!SKが能面のように見えるっていうコメントが面白かったですね。特に和を意識したわけではないんですが。
橋本:そうそう、なるほどなあと。
佐々木:そういう風に、PPPとしてやっていたものが、審査員の方からまた違う目線や評価をいただけるので、そういった客観的な意見は大きいなと思っています。
PPPのはじまり
— PPPはいつから活動されているんですか?
佐々木:活動自体は2011年からですね。
橋本:それ以前からお互い繋がりがあったんですけど。
佐々木: 2000年ぐらいから知り合いなんですよ。一緒に何かやりたいねっていう話はずっとしていたんですけど、お互い子どもができたり、震災があったりして、子どもに向けたことを何かやれないかなというところから、PPPがスタートしました。
橋本:ちょうど震災の時に子どもが生まれたんですが、
僕にとって子供は未知の世界だったんです。実際に生まれてみて、ああこんなに違うんだっていう衝撃を受けて。それから、いままでやってきたことをどういったかたちで子どもたちに見せられるのかなとか、楽しんでもらえるにはどうしたらいいかを考えていて。そんな時に震災があって、結果としてそれがPPPをはじめる大きなきっかけにはなりました。
表現とテクノロジー
–作品を拝見していて感じたのですが、テクノロジーがあった上で作品の方向性が決まるのか、方向性を模索していく中でテクノロジーを利用するのか、はじまりのきっかけはどちらですか?
佐々木:テクノロジー自体がトリガーになることはもちろんあるんですけれど、PPPの中では、テクノロジーを見せたいわけではなくて、あくまでそれは手段のひとつですね。もしかしたらテクノロジーはいらなくて、使わないでも成立することもあるかもしれない。
橋本:現在はそういう考えになってきているんですけど、最初に作ったTSUMIKIという作品では、その時流行っていたプロジェクションマッピングを利用して、動かして遊べる積み木とマッピングを組み合わせて、そこに絵本的なストーリー性のある世界を作りました。
《TSUMIKI つむとイメージがあらわれる次世代の積み木》
橋本:これまでの活動を通してPPPのかたちができてきたから、もっとシンプルに子どもが興味を持つものが作れたらいいなと思います。子どもって、僕らが思っているよりもっと直感的で、色をだけを見ていたりとか、考えないんですよね、そんなに。技術の小難しさとかはいらなくて、もっともっとシンプルに研ぎすまして、遊びの体験の入口としての導線をもっと解放してあげて、すっと入れるようなものがいいのかなと。実は難しいことをやっていても、簡単に見せる設計をする、そこが腕の見せ所というか。
体験の「奥行き」
佐々木:そういう意味では、アプリの前に作ったクラフト版のWA!SKはPPPにとってターニングポイントでした。それ以前はTSUMIKIや、PLAYPADというRFIDというICタグを使った作品を作ったんです。その時はそれで迷いなく作っていたんですが、WA!SKを作ったときに、単純に楽しいということでいいんだ、単純に楽しいものが人を惹き付けるんだっていうこと、当たり前のことなんですけど、そこに気がついて。そこからは橋本くんが言ったように、シンプルにいかに楽しく、それがどういう仕組みでどうなっているということは全然関係なくて、やって楽しいかどうか、デザインがぐっとくるかどうかっていうところに、どんどん進んでいきました。
《PLAYPAD 人とモノコトをつなぐインタラクティブ・デバイス》
–WA!SKはどのように生まれたんでしょうか?
橋本:WA!SKはもともと「おめん遊び」というアイデアから始まったんです。おめんを並んでかぶったらかわいいよねっていう、本当に直感的なものから。福笑いの話とかもしてて、そういうものから派生していって。その後に、テクノロジーとしてラズベリーパイを組み合わせて、しゃべれるおめんとして仕上げました。当初はもっと壮大に、喋った言葉が翻訳されて、みたいなことを考えてたんですけど(笑)、結果的にシンプルになって、それがよかったんだと思います。
《WA!SK かぶって話すと声が変わる不思議なマスク》
《WA!SKアプリ 色とカタチでおめんをデザインできるiPadアプリ》
佐々木: PPPでは、必ず手で触るとかクラフト的なことを意識して取り入れていて。デバイスがあったとしても、何かもう一つ、クラフトを組み合わせることで、単純に面白いし、体験に「奥行き」が生まれたり、得られる経験の情報量っていうのが全然変わってくるので。手をかざすと絵が動く、とかだけじゃ、いくら映像がリッチだとしても全然情報量としては少なくて。僕らは、遊びの体験の奥行きをどう出せるか、あとはシンプルにどうやってゴールまで到達できるのかをデザインするイメージでいつも作っています。
《GRAFFY お絵描きをアニメにするジェネレーターアプリ》
橋本:GRAFFYのきっかけは塗り絵からですね。
佐々木:そういったキーワードがいくつか常にあるんですよ。折り紙とか、おめんとか塗り絵とか。あとは、なんかラインを引くだけで楽しいよねとか、そういったキーワードがいくつか浮遊している中で、たとえば何か仕事の相談を頂いたときとか、テクノロジーがきっかけになったりとかして作品が生まれる。そんないいサイクルがずっと続いています。
遊びを考える
–どういったものからインスピレーションを受けますか?
佐々木:PPPは遊びがテーマなので、遊びからですね。どんな遊びがあったら面白いだろうっていう、遊びを考える。テクノロジーを使ったインタラクティブな演出とかは、僕ら以外にもやっている方が沢山いらっしゃいますが、じゃあPPPはどこが違うのか、僕らの立ち位置はどこなのかっていうと、常に遊びと向き合っていて、遊びを通した体験のデザインをずっとやってきているところなんです。
–PPPにとっての「遊び」とは何でしょう?
佐々木:うーん、遊び。なんだろうな、僕らもそれはずっと答え出てないんですよ。やりながら、こういうことかなって探っていく感じなんですけど。
理屈っぽく言うと、子どもってなんでも遊びから吸収するとか、遊びってコミュニケーションなんだっていうことなんですけど、もっとシンプルでいい気もするし、それだけじゃない気もしています。
橋本:遊びながら学べる、っていうもありますね。ただ学んだり感じるよりも、遊びという枠組みの中でやっていった方が絶対吸収力とか理解力とか、今後成長する上で必要な要素をいっぱい含んでいると思います。
佐々木:いろいろな面があるからねえ。
橋本:僕らがあえてやるというのはたぶんそういうところで、WA!SKにしても遊びの中から色とかたちを覚えていく、そういうところまで考えて落とし込んでいるので、そこの体験の精度をもっと深めていきたいですね。
遊びって昔からある原点的なものだと思っていて、いまの時代との違いといえばテクノロジーというのが出てきたところかなあと。
佐々木:原始時代にも石を積むっていう遊びがあったり。
橋本:縄文時代は土偶を作って壊したりとかね。
佐々木:そうやって壊すことで固さだとか、原理が分かったり、そこから学びになるんですよね。原始人のひとは遊びと思ってやってなかったかもしれないけど(笑)、それが日常にフィードバックされて得るものがある。僕らがその遊びを提供することで、楽しんでくれたひとが、新しい視点を持って、違った見え方とか、何か得るものがあったり。遊びは言葉や文化に関係なく世界共通なのもすごく重要なことですね。
橋本:あとは単純に自分たちが楽しいもの、というのがありますけどね。それが一番大きいですね。それ自体が遊びに繋がるというか。ずっとエンターテイメントを提供していて、それが僕らの原点でもあって、なんでそれをずっとやっているのかといったら、驚いたり感動したり笑ってもらったり、そういうのをやりたいからなんですよ。
遊びとテクノロジーのこれから
–これからの遊びとテクノロジーの関係はどうなっていくと思いますか?
橋本:もっと一体化していくんじゃないですかね。ちょっと前までだったら切り離されて考えられていたと思うんですけど、それがいまはiPhoneがぽんって置かれるようになって。今じゃ一歳児とかが触って遊んでるんですよ。テレビもタッチしたりしてて、できないからって言うんですけど(笑)。
だからこれからは、子どもたちはテクノロジーに対するリテラシーが高いのが当たり前という前提で時代が進んでいくと思うんです。僕らがiPadをその辺に置いてたら、知らない間に子どもはほとんど操作できてますからね。
–子どもたちにとってスマートフォンが身近になっていく中で、それを危険視する声もあるかと思いますが、それについて何かお考えはありますか?
佐々木:それってどの時代のツールでも起こる話かなと個人的には思っていて。いまそういう問題が起きたから、じゃあテクノロジーが悪い、みたいな考え方ってナンセンスというか無駄な気がするんですよね。それに対して何にも対策打たないのはダメですけど。将来的にも新しい技術が生まれたら同じ問題が必ずあるし、リテラシーについて熱く語るよりも、もっとポジティブな面を引き出してあげて、そのよさを伝えることで逆にリテラシーを高めるというか、楽しみながら正しく使うことが大事だと思うんです。
たぶんケータイの問題じゃなくて、人の気持ちを思いやれるかとか、そういうところじゃないですか。うちの子どもは小学生で、妖怪ウォッチのメダルがどうこうとか、大したことじゃないですけれどちょっとしたトラブルはあるんですよ。それって、僕らの世代ではビックリマンチョコでもあった話で(笑)、それはたぶんニンテンドーDSがどうこうっていう問題じゃなくて、もっと根本的なことをどうにかしないといけないっていう話だと思うんですよね。
PPPこども研究員
橋本:佐々木君の子どもはいま何才だっけ?
佐々木:上が7才、下が4才。
橋本:PPPの社員候補ですよ(笑)。小さい頃から見てるんですけど、いまは手伝うようになったんですよね。「僕が手伝う」って自分から言って。PPPやってて、お互いの子どもの成長が見れるんですよね。
佐々木:最初から遊びに行くっていうより仕事を手伝いにいくつもりで来ますね。
–作品を作る時に、お子さんの意見を参考にされてたりしますか?
佐々木:ワークショップの現場ではじめて作品を子どもに遊んでもらう時に、ああそういう風に遊ぶんだっていうような、僕らが考えもしなかった遊び方とか面白いバグが生まれたり、いろんな発見があって、それがフィードバックにはなってますね。
冗談半分で言うと、子どもに「こども研究員」みたいに入ってもらって、その研究員と一緒に遊びを考えるみたいなことができるといいなって思ってるんです。
橋本:そうそう、子どものスタッフもありだと思って。ひらがなブランディングもそこにつながってるんですけど、こどもにも読めるようにして。できればPPPファンの子どもができたり。
佐々木:ワークショップとかで名刺渡すことも本当にあります。こどもたちと一緒に作れたらいいなって思います。
《PPP名刺 大人にもこどもにも渡せるユニバーサル名刺》
–こどもに言われてはっとしたこととかありますか?
橋本:7才ぐらいだとつっこみが鋭いよね。
佐々木:基本的にいろいろ言われちゃいますね(笑)これがあったほうがいいとか。
橋本:大人の場合は、腕組んでふむふむみたいに、頭で考えて見てるだけなんですけど、子どもは実際に触ってやりはじめるんですよね。そこは大きく違います。
デザインする、ということ
–WA!SKの特徴として、気軽にデザインの感覚を学べる、といったところがあるかと思うのですが、デザインを学ぶということについて、どのようにお考えですか?
佐々木:広義の意味で言うと、デザインってグラフィック的なことだけじゃなかったり、視点そのものだと思うんです。子どもだったら、「何時に友だちと待ち合わせしてどこでなにをやれば今日最高に楽しく過ごせるか」っていう、それもデザインだと思います。子育てもデザインだし、電車の運行時間も、全部デザインで成り立ってるんですよね。だから、全然デザインやアートを知らないっていうひとだって、一日中デザインになにかしら触れているし、デザインしてるんです。それが、WA!SKのときはおめん遊びというかたちをとっていて、そういう体験をしてもらっていますけど、PPPとしては、グラフィック的な素養をつけてもらうだけじゃなくて、視点とか、もっと広い意味でのデザインを学んで、なにかそういうものを得てもらえる作品を作れたらすごくいいなって思います。
橋本:異論ないです(笑)。
佐々木:(笑)。基本的に僕ら全然考え方が違うタイプなんでけど、さんざん話し合いながらやってきてるんで、PPP的な考え方というか、目指したいところは共有できていて、だからこれまでやってきてるっていうのがありますね。
橋本:他のメンバーの岡崎さん(※岡崎智宏さん アートディレクター/デザイナー、SWIMMING代表)と山家さん(※山家明さん 建築家/空間デザイナー、mountain house architects代表)も、それぞれ独立した考えがあって、それぞれ違った考えを持ち寄って、PPPとして作品を作ってるんです。そういうひとをもっと増やしていきたいですね。建築家がいて、デザイナーがいて、ディレクター、エンジニアがいて、どんどん増えていけば、もっと広い遊びが作れるようになる気がする。
佐々木:みんながそれぞれ吸収したものを、PPPという公園のような場所に持ち寄って、アウトプットしている感じです。
絵本について
–普段お子さんに紙の絵本の読み聞かせをされたりしますか?
佐々木:そうですね、けっこう定期的に買います。おもしろそうな絵本があれば買って、家にそっと置いといて、子どもの反応をあとで聞くっていう僕の遊びなんですけど(笑)。大体僕が帰ったらもう子どもは寝てるので。普段家になかったものが加わると、だいたい子どもはすぐに見つけるんですよね。
橋本:僕は子どもが0歳のときから、毎年板橋美術館のボローニャ展に行って絵本を見させたりしていますね。海外の絵本ってセンスがよかったりするので、ああいったものに触れさせてセンスを培ってくれたらいいなと思っちゃいます。
–どういう絵本が好みですか?
佐々木:僕は加古里子さんがすごく子どもの頃の記憶として残っていますね。カラスのパン屋さんとか、だるまちゃんとか。子どもの頃は、それが加古里子さんとは知らずに読んでたんですけど、大人になって加古里子さんの他の作品とかをいろいろ知って。加古里子さんって、遊びの研究もしてるんですよ。日本中の鬼ごっこをフィールドワークして集めた大人向けの本とかあるんですけど、科学的な視点とか、いろんな側面があって面白いですね。
橋本:レオ・レオニとか風刺的でいいですよね。絵もかわいいし、メッセージもあるし。ブルーノ・ムナーリとかも。かわいい絵でメッセージ性あるものがやっぱりいいですよね。ブルーノ・ムナーリはけっこうPPPの要素に近いというか、尊敬してる感じですね。
これからのデジタルえほん
–これからデジタルえほんはどうなっていくと思いますか?
橋本:えほんといえばデジタル、といったように、完全に一体化して端末がそれを見るためのプラットフォームになるんじゃないですかね。もちろん、紙もまだ残ってるとは思いますけど、必然的にそう向かうんじゃないかなあと。CDがmp3に取って代わろうとしているのもそうだし、時代が変わっちゃうのはしょうがないと思うんです。僕らは別に推奨はするわけではないんですけど、それが普通になっていくと思います。その中で、たぶん作家さんもそれぞれ作り方が変わってきますよね。デジタルえほん作家が増えていって、それが当たり前になっていって、今の時代のブルーノ・ムナーリだとかレオ・レオニみたいな、ああいうひとがどんどん出てきてくるんじゃないですかね。
佐々木:音楽に関して言えば、レコードの方がゆらぎがあるとか、mp3ってスカスカだよねとか。音の聞き分けをする人っていうのも限られてくるじゃないですか。でも今はハイレゾだったり、テクノロジーがリアルを補完できるようなものも出てきてる。
橋本:まだハードが追いついていないと思うんですよね。もっともっと薄く、自然で身近なものになってきたら、絵本がデジタルえほんに統一されていくというか。
佐々木:それが理想の未来かどうかは分からないですけどね。手触りまでデジタルえほんから伝わるようになって、テクノロジーがリアルの伝えきれてないことも補完できるくらいにきっとなると思うんですよね。
–今後、産業としてのデジタルえほんはどうなっていくと思いますか?マネタイズの問題がよく取り沙汰されていますが。
佐々木:まだコンテンツとテクノロジーが一体化してないから、どうしてもそうなっちゃいますよね。
橋本:かといって絵本作家がそういうのをやりたいとは限らないじゃないですか。だからこれからは若手じゃないですかね、10代20代のひとが参入していくというか。
佐々木:普通に高校生とか小中学生がアプリ作ったりするわけじゃいですか。そういう子たちが、テクノロジーを使って何をしたいかっていう時に、デジタルえほん作家になりたいってひとが出てくるんじゃないですかね。
–これからのPPPのご予定としてはなにかありますか?
佐々木:毎年あたらしい作品作りたいですね。
橋本:できたらまた次回応募します。
-ありがとうございました。
*********************************************************************************************************
最後に、PPPの由来についてお聞きしたところ、
「playのPです。play play play、遊びの連続であり、集合であり、広がりです。
Pは破裂音なので、こどもが発音しやすい音とリズムという事もこの名前にした理由です。」
とお答えいただきました。
PPPのみなさんが提案する遊びのかたち。これから、どんなこどもたちをわくわくさせる作品が生み出されるのかとても楽しみです。
(ほりあい)