7月31日、ドットDNPにて現在開催中の「ふねくんのたび展」に合わせ、トークイベントが行われました。
ご来場いただいたみなさま、どうもありがとうございました!
“デジタルえほんの未来を考える”と題しました本トークイベント、二回目の今回は「表現とメディア」をテーマに、本展示の原作「ふねくんのたび」の作者であるいしかわこうじさんを迎え、デジタルえほんからは代表の石戸、アートディレクターの季里、さらに大日本印刷hontoビジネス本部ビジネス開発ユニットの吉岡康明さまにご登壇頂き、トークセッションが行われました。
今日は、そんなトークイベント当日の模様をお届けします。
まずは原作者であるいしかわさんから、ふねくんのたびが生まれた経緯についてお話いただきました。
いしかわさん:最初に作った絵本は「どうぶついろいろかくれんぼ」という本で、これだけ作ろうと思ったんだけど、(出版社の人に)“のりもの”も作ってくれと言われて、作ったんですね。そのときに、ふねを描いたんです。何かストーリー絵本というか、ストーリーのあるものを作ってみたいなあとはずっと思っていて、このふねが動いたらいいんじゃないかっていう風に思いつきまして。だから、この絵がスタートなんです。
人気シリーズである“しかけ絵本シリーズ”うちの一作、「のりものいろいろかくれんぼ」の表紙の真ん中に、ふねくんはいます。絵本「ふねくんのたび」のきっかけは、ふねくんの絵そのものから始まったそうです。
いしかわさん:ぼくは海とか港町がすごく好きで、いろんなところを旅をして、港や海を見て、この本も海とか空とか港とか、そういうものをのんびり眺めて楽しめる絵本にしたいなあって思って作りました。
今回の展示を企画するにあたって、アートディレクターの季里が一緒にデジタルえほんを制作したい人として、最初に名前があげたのがいしかわさんでした。コンピュータによる新しい表現が登場しはじめた1990年代に、既にふたりはお知り合いだったそうです。
季里:当時のCGっていうのは、すごく反射してリアルなものを作るというのが主流でした。その中でいしかわさんはほのぼのした絵をコンピュータとして描いていらっしゃって。私自身も、研究室に所属していた時に、何億円のコンピュータを使って、“こんな漫画みたいなものを作って!”と先生によく言われたりしていまして(笑)いしかわさんは同じ匂いがすると勝手に思っていました。
イラストレーターから転向し、絵本作家としての活動を始めたいしかわさん。そんな、もともと“デジタル畑”にいたいしかわさんが絵本制作をはじめたのなら、きっとデジタルえほん制作に興味をもってくれるはずだと、私たちはいしかわさんのもとに今回の企画展のお話を持っていたのでした。
“のんびり眺めて楽しめる絵本”として生まれた「ふねくんのたび」を、今回の展示に向けデジタル化するにあたって、私たちのあたまにあったのは“世界一ゆっくりしたデジタルえほん作ろう”ということでした。
しかしながら、企画当初絵本のデジタル化に対するいしかわさんの反応は、あまりいいものではありませんでした。
いしかわさん:絵本っていうのは、二次元的なものが印刷されているんですけど、結局は立体物なんですね。厚みがあって、手に取れる、ページを開いてみるとかたちがだんだん現れてくる、触ってみて固いと感じるとか、五感で感じるものだと思うんですね。そう考えると、これをデジタルに置き換えるっていうときに、プラスされる要素もあるけれど、失う要素もある気がして、絵本より衝撃度が減っちゃうんじゃないかって。電子書籍みたいな考え方で、絵本を電子書籍化するみたいなことだと、それはもう二次使用的な感じがして、わくわくしないなあと思った。
そんないしかわさんの気持ちが変わったのは、アニメーションやBigPadでの展示の話が出た時でした。
いしかわさん:絵本では、質感のあるテクスチャーを出している。それぞれのものに微妙な質感があったりタッチがあったり。アニメーションっていうと、線画があってそこにベタ面で塗るっていうのが基本じゃないですか。それだとこの味は完全に消えちゃうなって思ったんだけど、そういうテクスチャー感みたいなものを全部残しながら動かしていくことができれば、それはまた絵本と違う価値がでてくるんじゃないかって思ったんですね。“動く絵画”みたいな感じっていうんですかね。絵が動いたら面白いなって昔から思っていたんで。
絵本のデジタル化の話が進むにあたって、真っ先にいしかわさんの口から上がったのが本作「ふねくんのたび」でした。
いしかわさん:デジタルにしたことで別の魅力が出てくるって思えるものがいいなと思って。それがぼくの作った作品のなかでは「ふねくんのたび」が映像にしたときにいいんじゃないかって思ったんですね。というのも、この表紙を描いた時点で、このふねが煙をポッポッポッポと出しながらのんびり走ったら、気持ちいいだろうなっていうイメージが浮かんだんですね。それを自分が見てみたいなって。それが一番大きいかもしれない。
そんな“動く絵画”の実現化に奮闘したのが、DNPの精鋭クリエイティブチームです。
紙の絵本をデジタル化することでどんな魅力的なことができるのかということに非常に興味があったと、吉岡さんは語ります。
吉岡さん:絵本っていうのはストーリーがあるわけですけど、画面画面は連続的じゃないわけですね。ただ連続的じゃない画面の中にもストーリーがあるわけで、そのページ間のストーリーをどう繋げていくかというのがポイントだったかなあと思っています。
制作にあたって、いしかわさん本人の口から細かいところまでご指摘をいただき、満足のいく仕上がりまで何度も試行錯誤が行われたそうです。作品上映にあたっても、プロジェクターの特性上輝度が液晶に比べて落ちてしまうため、色や絵のタッチの再現性に留意した機種や投射する壁の選別に至るまで、徹底した吟味を重ねられました。さらに、立体的な音響効果を施し、より臨場感のある音像の探求が行われました。
BigPad展示は、話し合いの中から生まれたアイディアが実現したものです。iPad上で作ったオリジナルのふねくんを、BigPad上に表示された港に浮かべることができる本作品は、「川や池に自分で作った船を浮かべるようなイメージ」で遊ぶことができると、いしかわさんは語ります。
この展示は子どもたちだけではなく大人たちにも人気がありますと、吉岡さん。中には、同じ船をたくさん港に浮かべて遊んでいるひともいたとか。
アニメーションやBigPadなどを使用したデジタルの展示同様、今回の展示で大きく目を惹くのが会場全体に配置されるアナログ展示です。絵本の中に登場するふねや島の造形物は、こどもたちの注目の的になっています。
季里:まず、階段降りてきたと同時に絵本の世界にどーんと入りたいという気持ちがありまして、じぶんが絵本の中に入り込む世界を作りたいということで、二方向の壁、床を青くしたいということがありました。ドットDNPに来るお客様はまだ絵本が読めない1歳2歳のお子さんが多くて、その子どもたちにもいしかわさんの世界を楽しんでいただきたいということで、実際に触れる絵本の世界があるといいなと思いました。
「自分が子どもになってその世界に入っていきたい」と、とても満足げに語るいしかわさんがとても印象的でした。
トークイベントの最後には、それぞれにとっての“デジタルえほん”とは何かについて語られました。登壇者みなさまに共通するのは、デジタルえほんというのは、今までにない新しい表現のひとつであるということでした。
新しい表現の可能性と未来に対し、登壇者のみささまそれぞれが期待を寄せるかたちで、本トークイベントは終了しました。
「ふねくんのたび」展では、もともとはひとつの絵本作品であったものを、空間、造形物、アニメーション、BigPadなどの様々なメディアで通して表現しています。
展示までの道のりについて語られた本トークイベントを通して、登壇者のみなさんに共通しているのは“わくわく感”であったように感じました。
「絵本の中のふねくんが飛び出して動き出したらどうなるだろう」
「絵本の世界に実際に入り込めるような空間があったらどうだろう」
そんなアイデアへのわくわくする気持ちと、そしてそれをなんとしても見てみたい!という気持ちが、クリエイターたちを制作へ駆り立てているのだと思います。
当日参加された方にもそんなわくわくする気持ちを感じて頂けたなら幸いです。
本展示を通して、さまざまなメディアを行き来した表現が生むわくわく感と、新しい表現としての“デジタルえほん”の可能性を感じてもらえたらと思います。
「ふねくんのたび」は9月28日までドットDNP地下1階デジタルえほんミュージアムにて開催中です。
ぜひ、ふねくんの世界を体験しに来て下さい。
(ほりあい)
いしかわこうじ「ふねくんのたび展」
会期:2013年6月10日〜2013年9月28日
休館日:日曜日
開館時間:10:00〜18:00
入場料:無料(カフェ、スペシャルワークショップ等、有料のものもございます)
会場:デジタルえほんミュージアム(ドットDNP内)
住所:〒162-0843
東京都新宿区市谷田町 1-14-1 DNP市谷田町ビル
HP:http://www.dnp.co.jp/dotdnp/